圧巻の圧勝劇
「音声認証による形態変化……!スキルや魔法がプレイヤーの掛け声をトリガーに発動するのであれば声に応じて変形する武器があってもおかしくないのか。持ち手の部分が延長して穂先から刃が生成されたのはどういう原理だ?収縮されていたのが展開されて伸びたというより、虚空から収束されて物質が構成されたように見えたが」
目まぐるしく変化する一進一退の攻防を、ソーマのギミック考察を流し聞きながら観戦に集中していると、試合は更に急展開をみせた。
繰り出される数々の変形する槍に対して、ミサ選手は拳のみで完璧に攻撃を受け流し、軌道をズラし、時には的確なカウンターを決めて着実にジレン選手の体力を削っていく。
その激しい両者の怒涛の応酬に攻めあぐねていたが途中から間に割って入ったウルス選手に対しては、もはや興味なしといった様子で淡々とカウンターを決めていくミサ選手。
ミサ選手の一挙手一投足に応じて会場が揺れ動く、歓声が上がる、どよめきが起こる、拍手が飛ぶ。
いまこの闘技場は完全に彼女が主役で演目が繰り広げられる一人舞台となっていた。
『ウルス選手弾き飛ばされた!!あーっとここでウルス選手場外です!!続けてジレン選手も場外!!決着!決着です!!あっという間の幕切れ!!本日の正午台の部優勝者は見事一番人気に応えたミサ選手です!!』
『『『『『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』』』』
息をつく暇もない圧巻の戦闘は気がつけば終わりを告げ、今日一番であろう大歓声がステージで一人スタンディングの彼女を盛大に祝福するかのように惜しみない拍手と共に贈られた。
「最後吹き飛ばしたの何アレ!?なんか中国拳法みたいなのやってなかった!?」
「たぶんだけど鉄山靠と寸勁だと思う。ウルス選手にやったのが鉄山靠でジレン選手にやったのが寸勁」
「なあシキ、体当たりだけであんな簡単に人って吹き飛ばせるもんなの?」
「いやたぶん、というか十中八九スキルの効果で吹き飛ばしたんだと思うぞ。もしアレをスキルじゃなくて単純にプレイヤーの技量だけでやってたらもうフィクションの住人」
「動きのキレが他の二人と比べてなんか全然違ったもんなぁ。格闘技とかあまり見ないオレでもなんかヤベェってのはわかったし」
ミサ選手からは試合の開始前からただならぬ雰囲気を感じてはいたが、実際戦闘中の動きを観察しているとその通りだった。
ギルドの訓練場で出会ったカシさんよりは強そうな二人が完全に赤子扱いされており、なおかつまだ何かしらの手札を隠している印象もあった。
それは他の2人にも言えることで、どうも全力を出しての死闘、という感じではなかったな。
小手調べというか前哨戦に近い感じだ。手札は見せるが切札は見せない、そんな印象。




