回避出来た不慮の事故
特に目的もなく適当にSNSを眺めて画面をスクロールして時間を潰していると、タブレットからクラスメイトの声が届き始める。リモートではなく登校を選んだクラスメイトもいるようだが、よくこの雨で家から出る気になったな。素直に尊敬する。
『はー!雨やべー!!靴下までびっちょびちょだよ!!』
『オーッス、やっぱ人少ねーな。大半リモートか?』
『いいなーリモート。くっそー、母ちゃんが急遽リモートワークにならなきゃ登校しなくて済んだのによぉ。スマホさえ壊れてなきゃ今でも家でのんびり出来たってのに』
『何言ってんだよ、そりゃ尻ポケットにスマホ入れたまんま座ったお前の自業自得だろ』
『いやいやちゃんと強化ケースに入れてたんだぜ!?まさか画面割れるとは思わねぇじゃん!?』
『ありゃ本体の角とか背面に傷がつかない為のモンあって、剥き出しの液晶に自分のケツから体重かけたらそりゃ壊れるだろ』
そんなとりとめのない会話がタブレットからラジオのように流れていると、暫くして予鈴が鳴り響いた。
時間的には朝のHRの開始を告げるチャイムだ。俺はベッドから起き上がり、勉強机へと向かう。
『いやー、まじ人少ねー。女子はほぼ休みで来てるの学級委員の久奈原と日南だけじゃん』
『男子も登校してるの運動部くらいだな。もう臨時休校でよかったんじゃねぇのこれ?』
『守野君、後藤君。静かに。今はHRの時間よ』
『そうは言ったって朔夜先生まだ来てねーしなぁ』
『なんだー、呼んだか後藤ー?』
『おわっ!?朔夜先生いつのま……先生どしたのそれ!?びしょびしょじゃん!?』
無人の教卓と黒板が映し出された画面の右端から、髪の毛や上着がずぶ濡れになった紅井先生がフェードインしてくる。首から小さいタオルをぶら下げているのである程度は拭き取ってはいるようだが、濡れた範囲が広すぎて拭き取りきれなかったのだろう。
『車から降りて傘を開いたら突風で傘を持ってかれてなー。校舎に入るまでに大雨に打たれてご覧の有様です。飛んでった傘は校長の車に直撃しちゃったけど、これオフレコで。臨時休校にしていればこんな事にはならなかったんだけどなー』
『あ、紅井先生!そのままだと風邪引きますよ!?これ、使って下さい!!』
あっけらかんとした紅井先生だが、突然画面端から学級委員の日南が大きめのタオルを持って教壇に現れる。しかし紅井先生はそれを受け取ろうとはしなかった。
『いやー、大丈夫だ日南。気持ちだけ受け取る。私はこれで風邪を引いて明日休むつもりだからなー』
『馬鹿なこと言ってないでちゃんと拭いて下さい!!それと、その…………ッ』
『……うん?あー、そうか健全な男子共にはちょっと刺激が強いなー。じゃあ借りるぞ日南、ちゃんと後日洗って返すからなー』
日南から何やら耳打ちされた紅井先生は一転してタオルを受け取り、上着全体に覆い被せるようにタオルを身体に巻いた。それから出席簿と一緒に持つタブレットを教卓に置いて教壇に立つ。
『さてと、そしたら出席取るぞー。リモート登校組はちゃんとカメラの前で顔を出しておくように。顔見えてないなら欠席にするからなー』




