微睡みの淵に立つ時、睡魔はお前の脚を掴んでいる
運営から届いたメッセージの内容は、突発的なイベント開催告知ではなくリアルタイムアップデートのお知らせだった。
翻訳機能の不具合修正だったり、テキストの不備やモンスターの行動パターン調整と、まあよくある修正のアップデートであったが、なんかしれっとグルメビルドアップの回数が増えたり新エリアが解放されたりしている。あとカジノ内でのスクリーンショット制限解除ってなんだ。スクショ禁止されてるのかカジノ。
いくつか「あれってこだわりぬいた仕様じゃなくて不具合だったのか」と思わしき項目があるが、それがバグだったのか仕様なのかを確認する術はなく。まあ行動不能になったり壁にめり込んだりするようなバグとかじゃないなら別にいいか。
過去のVRゲームではプレイ中にいきなり画面が真っ暗になって行動不能に陥ったり、地面の物理判定が消失して延々と落下し続けたりするようなゲームがあったらしいからな。一昔前のコントローラーで操作するタイプのゲームであるならなんてことはないバグだが、一人称視点で実際に自身が体験しているかのようなVRゲームではシンプルに恐怖体験である。
LDDではそういった致命的なバグの報告とかはSNSを眺めている限りないが、今回のような細かい不具合はあるらしい。サービスを停めずにアップデート出来るなら、ファストトラベルを追加してくれてもよさそうなものだが……。
運営からのメッセージを閉じ、スマホを手放す。眠気は来ないがこのままスマホを見続けても更に遠ざかるだけなので、無理矢理にでもやって来るようにベッドで横になって目を閉じる。
眠れない時は羊を数えるといいみたいな話を聞くが、正直羊を数えた所で眠気なんて来ないだろというのが個人的な感想である。中学時代の全校集会での校長先生の長話とかの方が、よっぽど眠気を誘うと思っている。興味がない話が続くと意識が分散されて集中力が散漫になる事で眠気を誘発しているんだと思う。知らんけど。
確たる証拠のない思いつきのロジカルシンキングを展開している脳を休ませる為、瞳を閉じながら身体の力を抜いてゆっくりと深呼吸をする。思考力を放棄するのを意識するという矛盾行為ではあるが、呼吸に意識を向け続けると、気がつけば寝落ちしている時が多いので困った時はこれ。
鼻から息を吸い込み、口からゆったりと長く体内の空気を吐き出し続けるのを繰り返す。すると遠ざかっていた眠気がゆっくりと忍び寄り、気がつけは意識は微睡みの淵から奈落へと突き落とされた。
――――そして激しい雨音で目が覚める。
時刻をスマホで確認するとセットしていたアラームが鳴る40分前であった。起きて準備をするには早いし、かといって二度寝するには絶妙な時間だ。この時間で二度寝するとたまにアラームに気付かないレベルのガチ寝に再突入して遅刻ギリギリになった事があるのだが、……まあいいか。二度寝しよ。浮上しかけた意識を再び沈めて、俺は心地よい眠りの森へと帰っていくのであった。




