良質な仕事は良質な睡眠から
「本部には宿直隊員が使用可能な仮眠室が設置してある。パトロが戻ってくるまでそちらを使うといい」
「仮眠室の寝具は凄いぞ!『ヒーリングシープ』のウールを使用しているのであらゆる疲労を消し去る効果がある!!」
「……ハイハイ、どうあっても解放するつもりはないわけね。じゃあいいよそれで」
睡魔に負けつつあるのか、発する言葉に抵抗感のないレオレクスはあっさりと提案を受け入れる。レオレクスのことだからもう少しゴネたりしそうな気配があったが、今はそんな余裕もないのか再び小さな欠伸を零す。
その姿を見ていたら俺まで欠伸が移ってしまい、くあぁと出た欠伸を噛み殺す。なんで他人の欠伸を見るとこっちも欠伸が出るんだろうな。人間って不思議だ。
「二人共、慣れない地下での疲れが見てとれるな。急いで戻るとしよう」
それから俺達は眠気を覚えつつある瞼を擦りながら、本部へと戻った。両開きの扉を通り、建物の中に入る。
「あっ、エーシ隊長!戻られたのですか!連れ去られたカトー隊員とキネカ隊員が戻られて、現在医務室に!」
建物内に入るやいなや、白衣を着たエルフ族の女がエーシへと報告する。どうやらミサさんが連れてきた隊員は無事本部に帰還したようだ。
「ッ!そうか!!今向かう!!すまない、俺はこれにて失礼ッ!!」
「エーシ隊長!!ろ、廊下は走らないでください!!?」
報告を聞き届けたエーシは一目散に駆け出して、あっという間に姿が見えなくなった。出逢った最初から最後まで騒々しい人だったな……。
「……同僚が騒がしくしてすまない。さて、私はこれから報告書を書かなければならないのでここでお別れだ。仮眠室はこの通路の突き当りにあるから自由に使ってくれたまえ。パトロが戻り次第、解放の是非については尋ねておく」
「寝たらしばらく起きないから、書き置きでも残しておいてよ」
「ああ、そのつもりだ。睡醒者は睡眠時間に個体差があるからな。数時間で目覚める者もいれば、数日、数週間目覚めない者もいる。逮捕した睡醒者が数週間目覚めなくなり、再び目覚めたら記憶と力を喪失していた事例も把握している。その辺りは抜かりない」
迷惑行為でとっ捕まったプレイヤーがログアウトしてそのまま引退したパターンだろうか。プレイヤー視点で見ればなんてことはないよくある引退だが、ゲーム内のキャラ視点だとはた迷惑極まりない行為だなこれ。
「それと『黒隠糸』を回収させてもらう」
「……うん?ああ、そういえば借り物だったねこれ」
ゆっくりと外套を脱ぐレオレクスを横目に、俺は外套を手早く脱いで軽く折りたたんでケーラへと手渡す。レオレクスは意外にもキチンと折りたたんで返却する。本当に意外だ、雑に返すかと思ったけど、こういう所はキッチリしてるらしい。
「これでもういいかい?じゃあ寝させてもらうよ」
「お疲れ様でした」
「ああ、ご苦労だった。ゆっくり休むといい」
ケーラと別れて、俺とレオレクスは仮眠室のある突き当りまで廊下を進む。先を行くレオレクスだったが、唐突に立ち止まってこちらに振り向いた。な、何だ?




