前兆
「ちぃとばかし野暮用があってなぁ。本来ならもうちっとサクッと片付く案件だったんだが、肝心の探し人がジオフロンティアにいるってもんで、気がつきゃこんな辺鄙な場所までたらい回しよ」
リドーと呼ばれたドワーフはこちらへと歩み寄ってきて、周囲を覆う氷をたったの一刀で切り裂いた。氷のドームは観音開きのようにパカッと左右に割れて崩れていく。なんかしれっとすごいことやるなこのドワーフ。
「そうだったのですか。ちなみにどのような用事で?」
「ルナティスの大陸各地で人が消える事例が多発している。いわゆる異界顕現の兆しが確認された。ワシぁその案件の対応で駆り出された」
「ッ!」
リドーの話を聞いたケーラの表情が変わる。なんか緊急性の高そうな案件っぽいけど、さっぱりわからないのでとりあえず成り行きに任せる。
シナリオ関連に興味がないレオレクスはというと、喧しい猿叫を出したリドーに対して物凄い不満そうな表情を浮かべていた。……うーん、あまり刺激しないように触れないでおこうか。触らぬ神に祟り無し。
「……異界顕現?」
「なんでぇ坊主、不勉強だな。歴史書は読まねぇのかい。まあ要らぬ世話だったとはいえ助けに入った気概に免じて説明してやらぁ」
「め、面目ない」
「異界顕現ってのは読んで字の如く、異界に連なる者が顕現する特異現象だ。その兆候としてこの世の人が消失する。そして過去の異界顕現時、消失した人間と同じ数だけの人が虚空より現れた。まるで帳尻を合わせるかのようにな。現在、大陸で確認されただけで数十人、そん報告の中にゃぁ眼の前で消えたっつぅ報告も上がってる。ケーラ嬢、あんたン所ではそんな報告は上がってねぇかい?」
「失踪届けは…………いや、つい数刻前、本来配置についている歩哨達の姿が見えなくなった事例が」
そういえば廃墟に配備されていた歩哨達がいなくなっていたな。まさかそういう繋がり方をするのか。
「誘拐、拉致の可能性はあるかい?」
「いえ、そういった痕跡は確認されてません」
「……そうかい、ムルフィームの街でも確認されたとなると本格的に顕現が始まるのも時間の問題だな。早くて1ヶ月以内ってとこか」
「ご、御老公!その異界顕現とやらは、対処法などはあるのだろうか!?」
「消える人間は無作為で法則性がねぇ。対処法っつー便利なモンは存在しやしねぇよ。消えた人間は天に見放された、それだけの話さ」




