紙一重
周囲を漂っていた水蒸気の煙幕は一撃で霧散し、晴れた視界に飛び込んでくるのは規格外の猿叫にやられたのか地面に倒れ伏す住人達であった。そしてその奥で、渾身の一振りで大地に亀裂を走らせたドワーフの男が、トンファーを胸の前で構えたスキンヘッドの男と対峙していた。
「ひ、ヒィィィィ!?な、ななな、ななにッ、ナニモンなんでぇあんた!!?」
「ワシぁボア相手にゃぁ名乗らねぇよ。それよか見た目のワリに悪運の強ぇ野郎だ、懐かしい顔を見たモンだから手元が微妙に狂っちまった」
ドワーフの男がそう言うと、スキンヘッドの男が構えるトンファーの長い棒の部分がポトリと地面に落ちた。
「ッ!!?『スネイクウッド』で出来たおれのトンファーが!?」
「ただの硬ぇ木程度でワシの剣を止められるわけねぇだろう。さて、御自慢の武器は棒切れになっちまったなぁ。けど今のワシぁそこそこ気分がいい、誠意を見せるってんなら見逃してやってもいいが、てめぇ次第だ。左右で泣き別れしたくねぇなら5秒以内で決めな」
ドワーフの男は再び握る剣を頭上に高く振り上げ、柄尻に左手を添えて追撃の構えを取る。それを見たスキンヘッドの男は即座に掴んでいたトンファーの残骸を放り捨て、地面に両手両膝をついて深々と頭を下げる。
「お、おれが悪かった!!すまねぇ!!だから命だけは!!どうかッ!!?」
「地に平伏した謝罪だけで済むと思ってんなら、相当おめでてぇ頭してやがんなぁ?えぇ?」
「ッ!!?そう言われても今のおれは手持ちがねぇんだ!?」
「あぁそうかい、そいつぁ残念だ」
「あっ!?ま、待ってく――」
「待たねぇよ」
「~~~~~~~~ッッッ!!?!?」
スキンヘッドの男は顔を上げて静止を懇願するも聞く耳を持たれることなく、無慈悲にも振り下ろされたドワーフの男の一振りは、男の頭蓋を輪切りにようかのように斜めに振り下ろされ、空を斬った。紙一重、いやスキンヘッドの男なので髪は生えてないのだが、本当に頭上スレスレを剣が通り過ぎたのを俺は見た。
だがスキンヘッドの男の視界ではおそらく頭を斬られたと錯覚したのだろう。男は恐怖のあまり失神したのか、口から泡を噴いてそのまま仰向けになるように地面へと背中から倒れ込んだ。
「てめぇの腐った性根はワシがたたっ斬った。目覚めたら心入れ替えて……って、訊こえちゃいねぇか。悪運は強ぇが堪え性のねぇ野郎だ」
気絶するスキンヘッドの男を見下しながら剣を鞘に収めたドワーフの男は、身体の向きと視線をこちらへと向けて言葉を紡ぐ。
「さて、随分とべっぴんさんになったじゃねぇかケーラ嬢。息災かい?」
「はい、お陰様で。改めて、御無沙汰しておりますリドー公。まさかこのような場所でお逢いになるとは」
どうやらケーラとリドーと呼ばれたドワーフの男は顔馴染みのようだ。宝石のついた鞘といい、王族関係者とかなのだろか。にしてはキレた際の言動は気品の欠片も感じなかったが……。もしくはドワーフなら王族に仕える専属の武器職人か?




