初太刀に全霊を
「……おう坊主、ワシぁてめぇがどこのどいつか存じ上げねぇが、男の喧嘩に水を差すのは頂けねぇなぁ。5秒やる。5秒以内にワシの前からどかねぇってんなら、一緒にたたっ斬る」
ドワーフの男が右手に握り締めた剣を自身の耳の辺りまで高く振り上げ、柄尻に左手を添えてピタリと静止する。構えた途端にドワーフの男から漂う異様な圧を感じ取る。
「5――」
「ご、御老公?」
「なんだぁジジィ!?薪割りみてぇな構えなのに、握ってるのは剣だがボケちょるんかァ!?」
ドワーフの男の構えを見て困惑するエーシと嘲り笑うスキンヘッドの男。確かに薪割りみたいな体勢だが、なんかどこかで見覚えあるんだよなあの構え……。
「ッ!……あの構えは――貴君ら!至急火属性魔法を放つ準備を!水蒸気の煙幕を展開してエーシを連れ戻す!!」
「え?あ、ハイ!」
「そんなに慌てるような事態なのかい?」
「説明してる暇がない!兎に角、魔法を放つ準備を!」
「あー、ハイハイ。よっぽどみたいだね」
突如、ケーラが声を荒らげて指示を飛ばした。どうやらあのドワーフの男の構えに心当たりがあるようだが、あまりにも急すぎて俺はよくわからないまま反射的に返事をする。とりあえずランスロッドを取り出して構えた。
「3――」
ゆっくりと告げられるドワーフの男のカウントダウンが進む度に、周囲の空気が深々と重くなっていく錯覚に陥る。構えの詳細は依然として不明だが、ケーラが慌てふためくのも無理はないと直感的に理解する。だいぶヤバイ大技放とうとしてるな?
「今から頭上に氷塊を浮かべる!それを全力で撃ち抜いてくれ!――ハァッ!!」
「な、なんだぁ!?」
「氷!?」
ケーラの裂帛の声に合わせて、上空に巨大な氷塊が出現する。直後、ケーラは全速力でエーシの元へと駆け出した。俺は氷塊を見上げた周囲の野次馬である地下街の住人達が慌てふためくのを横目に、指示通り全力で魔法を撃ち抜いた。その横で、レオレクスも槍を構えて魔法を放つ。
「『フレイム』!!」
「『『火焔槍・烈風』!』
「おわぁぁぁぁ!?今度はなんなんだよ!?」
「何も見えねぇぞオイ!?」
氷塊に直撃した炎が周囲に水蒸気を撒き散らし、視界が一気に悪化する。先が見通せず、エーシの元へと駆け出したケーラの姿も確認出来ず、パニックになっている野次馬達の声しか聞こえない。
「1――」
だが、それでも何故か耳に届いたドワーフの男の宣告を聞き届けた直後、水蒸気の煙幕を突っ切る影が1つ。
「――――耳を塞げ!!」
エーシの手を引っ張って無理矢理連れ帰ったケーラはそう言うと、即座に俺達を覆い隠すように半円球状の氷の天幕を展開する。言われるがまま、俺は両手を耳に当てる。周囲の音が徐々に小さくなっていくその刹那、塞いだ掌の先で音が爆ぜた。
「Честь――――――――――!!!!」
「ッ!!?」
大地が揺れ動く衝撃と共に、耳を塞いでいるにも関わらず鼓膜を破らんとするほどの音圧が押し寄せ、周囲に展開している氷の天幕に亀裂が走り一部が崩壊する。な、なんて声を出すんだあのドワーフ!?




