中に人は入っていません。
「では我々はこれで」
「……いや待ってくれ、ならせめて手持ちで一番価格の安い『スマラカタ宝晶』だけでも!!」
「要らないって言ってんのがわかんないのかねぇ!?『スマラカタ宝晶』だって三桁万Gはくだらない代物だよ!!なんなんだいアンタ、前進しか出来ない壊れた荷車かい!?」
「エーシ、相手が断りを申し上げているのに押し付けるのは逆上させる行為でしかない。現に貴君の行いは火に油を注いでいるだけだ」
「…………ううむ、俺はどうも交渉や取引の類いがてんでダメなようだ。母が宝石商になるのを認めてくれなかったのはそれ故か……」
「混じりっけない善意なんだろうけど、アンタは駆け引きや商いは向いてなさすぎるよ!慧眼なアンタの母親に感謝することだね!!これ以上なんかゴネようってんなら、拳で黙らせて地上に捨てるからね!?」
苛立ちを隠すことなく顔に出し、右拳を握り固めて左の掌をパンッと叩いて威嚇してみせるフェニア。わざわざ地上まで送り届けてくれるつもりらしいので、治安やモラルが崩壊している地下街の住民にも関わらず根っこの部分が随分と善人寄りだ。これがさっきの【片翼】とか小人族の男だったら問答無用で攻撃して宝石ぶんどられて放置で終わりだろう、知らんけど。
フェニアは元は地上で普通に暮らしていたけど、なんらかのきっかけで道を踏み外したとかなんかそんな感じなのかもしれない。足元を見ようと吹っ掛けても正直にネタバラシするあたり、悪に染まりきってないというかなんというか。まあ全力で拳を振るう事に抵抗はないようなので、油断してると喰われそうではあるが。
「それはダメだ!暴力で解決するのはよくない!!」
「ついさっきまで暴れ回ってたアンタがどの口で言うんだいッ!?ああもうホントに調子が狂うねぇ!?頭がどうにかなっちまいそうだよ!!」
「気分が優れないのであれば状態異常回復のポーションなら手持ちに」
「いらない!出すな!片付けな!!アンタとの会話が続くともらったところで治るモンも治らないよ!!アタイは大丈夫だから早いところ上に帰っておくれ!!」
「…………だ、そうだ。行くぞエーシ」
「う、うむ……。では、失礼する」
颯爽と踵を返してこちらへとケーラが戻って来る。その背中をフェニアがいる後方をチラチラと見返しながら進むエーシが続く。エーシが振り向く度にフェニアは威嚇するように拳を強く握り締めるので、流石に観念したのか三回振り向いたあとはもう振り返ることはなかった。
……一体どんな思考ルーティンで動いてるんだこのNPC。実はプレイヤー名が出ないように表記偽装して中にリアルの人間が操作してるとかじゃないのか。未練がましい感じとか、ここまで自然に出せるものなのか。




