金剛の肉体を持つ女
「いいや?アタイはちょいとばかし騒がしかったもんだから顔を出しただけさ。そしたらほら、そこに居る男が槍を振り回して暴れてるときた。場所が場所なもんで、『ティタンズ』と『リリパット』の若いのが顔つき合わせてたらヴィヒテルまでやってきちまった。そしたらあとは抗争開始で今に到るってワケさ」
「……、つまり貴様も同罪だな。わたしの睡眠を妨害した罪は重いぞ。腕か脚か、好きな部位を選ぶがよい、即刻切り落としてくれる」
女の背中から展開されている金属の翼がみるみるうちに形を変えていく。パタパタと折りたたむように変化していく翼はやがて一本の剣のような姿へと変貌を遂げる。
「ハハ!!そんな細っこいなまくらでアタイの肉体を切断出来ると思ってんならおもしろい冗談だ!!狙うんならほら、首狙いなよ首!」
「そうか、――ならば首を断とう」
女がまるで事務処理を行うような淡々とした声音で告げた直後、ノータイムで背後の剣がひとりでに動き出し、フェニアの首筋目掛けて尋常ではない速度で襲い掛かった。
フェニアの無造作に伸びた髪を断ち切りながら迫った剣はフェニアの首の肉に深く沈み込む――が、そこまでであった。剣はフェニアの肉の鎧に防がれて弾き返される。
「ほぅら、いわんこっちゃない。アタイの首を刈り取りたいんなら、もっと立派な得物を用意するこったね!」
「自身の発言に嘘偽りなし、か」
首を剣で斬られそうになったというのに、フェニアはケラケラと笑いながら女を見下ろした。斬撃を無効化しているのか?スキル、だろうけど何をどうやったのかさっぱりだ。どう見ても人体を一刀両断出来そうな勢いだったのに、平気な顔しているのはデタラメがすぎる。
パッシブ系のスキルなのか、それとも危機に応じてオート発動タイプか。とにかく生半可な攻撃は通用しないとみた。
「いいだろう。ならばお前ではなく部下の命を戴く」
それから女の背後へと戻った剣が、今度は近くに倒れている巨人達へと凶刃が向けられる。先程と同じく物凄い速度で振り下ろされ、倒れている巨人の胴体を両断せんとしたその刹那、遠方より飛来した音を置き去りにした超光速で迫る槍が剣の軌道を変えてみせた。
地面へと叩きつけられた剣は、地面をまるで豆腐に包丁を入れるように抵抗することなく受け入れて、深く深く突き刺さった。なまくら……?これでなまくらになるなら、市場に出回ってる武器のほとんどがただの金属板扱いになってしまうんだが?




