イチかバチかのカウンター
「今のが全力、ってワケでもないだろう?5割といったところかい!?」
「ぬかせ!!3割だってェの!!――――『破刻・参転』!!」
煽りを受けて距離を一息で詰めた男が吐き出した裂帛の声と共に繰り出した右拳が、フェニアの顔面へと向けて放たれた。音を置き去りにした渾身の一撃が振るわれるも、その小さな拳は交差したフェニアの両腕で防がれる。
衝撃に押されて後ずさるフェニア。攻撃を防がれた事に苛立ち混じりに舌打ちをこぼした男は空中で華麗に身を翻し、再び距離を開けた。
「おいおいよしておくれよ、こんな美人の女の顔を狙うなんて悪い男だねぇアンタ!!」
「分厚い岩盤程度なら今の一撃で粉砕されるってのに、平気な顔で防ぐテメェは女のカテゴリにゃあ含まれねぇよクソが!!」
「ハハハッ!無意識で手加減したんじゃないのかい!?」
「するわけねぇだろ!!オレぁ相手が女だろうがガキだろうが関係なくヤキ入れる事が出来ンだよ!!――――『破刻・肆経』!!」
怒りに震える男の右手から赤黒い闘気が溢れ出し、空気に触れて揺らめいた直後、男の姿が消え去り、次に現れたのはフェニアの背後であった。
「――ッ!後ろから殴ろうとするなんて男の風上にも置けないヤツだね!!」
裏をかかれたのにも関わらず恐るべき反応速度で対応してみせるフェニアが、体格差の影響で背後の足元にいる男を踵で蹴り飛ばす――が、ヒールキックは空を蹴る。
「――残像だバカが!!」
どういった原理か、確実に背後にいたであろう男の姿がいつの間にかフェニアの前面へと移動していた。小人族の男は飛び跳ねながらアッパーカットを狙うような動きで、フェニアの顔面目掛けて天へと拳を突き立てる。
「――――――フンッ!!!!」
「――ッ!??んだとぉ!!?」
男が素っ頓狂な声を上げたが、それは無理もない事だった。確実に顔面を捉えたと思った一撃は、フェニアが拳を迎え入れるように自身の額を合わせることで、勢いが伸び切る直前にヘッドバットで相殺してしまったのだから。
少しでもタイミングがズレていたらダメージが増加するどころか一撃KOもありそうな攻撃だというのに、躊躇いもなく実行してしまうのはいくらNPCといえども軽いチートの領域に踏み入れてないだろうか。
「えぇ、なんだい今の。………………きもっ」
そのあまりにも衝撃的な瞬間を垣間見たレオレクスがボソッと小さく呟いた。うん、まあ今のを現実でやれと言われて実行出来る人はまずいないだろう。
ゲームでならトッププロゲーマーとかなら出来そうな気もしなくはないが、眼前に迫る攻撃から目を背けず瞼も閉じることなく頭突きで対処しろってのは想像しただけでゾワゾワする。俺ならタイミングが合わずに鼻打たれてノックアウトだと思う。




