忌み子
『あなた達はエーシと合流したら、すぐ地上へ退却するように。エーシが地下へ降りる際に利用した通路で帰還したらその通路は放棄、今後の利用は禁止とします。私は時間ギリギリまで捜索を続けるわ。それともし、そちら側でミシィや歩哨達を発見した場合は、そのまま引き連れて撤退を。健闘を祈るわ』
指示を出したパトロは踵を返し、行方不明となった隊員が消息を絶った地点へ急ぎ足で駆け出した。
「……と、いうわけだ。今日は些かイレギュラーが多すぎて少々頭が痛いが、とりあえず我々は今からエーシと合流を図る。可能であれば行方不明の隊員と合流し、地上へと帰還する」
立ち去ったパトロを見送ったケーラが眉間の間を軽く手で揉みながら状況を整理する。やることはシンプルで隊員と合流しての撤退。しかし先程物凄い速度で移動した怪力の小人族がエーシの元へと向かったとなると、戦闘中に乱入するような形になりそうだ。正直難易度的にはかなり厳しいのではないだろうか。
それから俺達はケーラを先頭に、エーシが暴れているエリアを目指して走り出す。地面がボコボコで走り難い大通りは人の数が少なく、すれ違う人物はほとんどいない。というか、なんなら通りを歩いていた人々は飛んで火にいる虫の如く、喧騒の元へと駆け出している。野次馬根性がすごいなここのNPC。狂ってやがる。
「状況的に戦闘もやむ無しって感じだけど、何か合流するにあたって策はあるのかい?」
「一応、考えはある。現場に到着次第、貴君らの火魔法と私の氷魔法をぶつけて水蒸気の疑似煙幕を展開させ、その隙に合流して離脱する。無論、これが上手くいく保証はない。失敗した際はプランBだ」
「プランB?」
「制圧してからの撤退だ。……パトロの精神的負荷が高まるからあまり行うべきではないのだが、地下街のゴロツキ相手であればこれが一番有効的で確実である事実は揺らがない」
「強者だけが正義ってヤツだ。わかりやすくていいね」
「しかし問題はある。エーシが雄叫びを上げているあの辺りは地下街では数少ない中立地帯ではあるが、【片翼】擁する『アヴィス』、巨人族のみで構成された『ティタンズ』、小人族のみで構成された『リリパット』が睨みを効かせている場所だ。最悪、そのすべてを敵に回して撤退戦を強いられる可能性も有り得る。そうなるとかなり厳しい状況を強いられる事になる」
「ああ、さっきそんな事言ってたね。あの小さいの見て、通行人が血相変えて兎みたいに逃げ出したけどあれそんなに強いのかい?」
「『リリパット』のヴィヒテル。小柄な体躯にも関わらず、巨人族すら一捻りしてしまう身の丈に合わぬ膂力は特異体質によるモノだとまことしやかに囁かれている。なんでも一切の魔力を持たずに産まれた忌み子だとか。魔力を持たぬ代わりに、桁外れの筋力と敏捷性を備えているそうだ」
どうやらあの小人族。特別仕様のNPCらしい。なんかユニーククエストとかありそうな気配を感じるけど、あの短期な性格や物言いといい、節度を守って遊ぶ真っ当なプレイヤー向けというよりはPKしたりレッドネームになっているプレイヤー向けのキャラなのだろうか。




