指折りの実力者
『……今の雄叫び、とてもよく聞き覚えがあるのだけれどケーラはどうかしら?』
「そうだな、あの並外れた雄叫びを出せる者が世界広しといえど、そうそう居るとは思えん。エーシの可能性が高いだろう」
「エーシ?」
どうやらパトロとケーラはあのバカみたいにデカい声の主に心当たりがあるようだ。2人の知り合いということは同僚とかだろうか。
『エーシ、我が治安維持部隊の第四部隊隊長の事よ。確証はなく推測になるのだけれど、第三部隊隊長のヴァンケンから要請を受けて地下へ隊員の救出に降りてきたと思われるわ。第三と第四部隊は諸事情で直近の各隊の隊員数が減少していて、ニ部隊混成で作戦行動に赴く事があるの』
「荒事に対応するならヴァンケンよりエーシの方が実績は上ではあるのだが、如何せんエーシは隠密行動が不得手で存在が明るみになりやすい。抑え役がいれば話は別だが、あの雄叫びを聞く限り単独だろうな……。おそらく先程の貴君らの知人が救出した2人が救援対象だったのだろうが、既に問題が解決しているのを知らない可能性が高いな」
どうやら2人の同僚であるエーシとやらが、別件で要請を受けて地上で攫われてしまった隊員の救出で地下街にやって来たようだ。しかし、その救出対象である隊員はすでにミサさんが救出してしまっている。
たしかカトーとキネカだったか?【片翼】とやらを追跡している時に尾行がバレて襲撃され、地下街に連れ去られたけど通りすがりのミサさんに助けられたって流れだったな。エーシは絶対に見つかるはずのない探し物をしていたら、逆に地下街の住人達に見つかってしまったというわけだ。
「ふぅん。治安維持部隊なのに治安の乱しっぷりが凄まじいようだけど、本当に大丈夫なのかいそのエーシって人物?」
『そうね。戦闘能力に関して言えば全隊員の中でも上から指折り数えた方が早い程の実力者だけれど、始末書の枚数も上から指折り数えた方が早い程の実力者ね……』
レオレクスの指摘直後、盛大に何かが破壊されるような凄まじい衝撃音と土煙が立ち昇り、遅れて怒号と罵声が遠雷のように轟いた。同じく始末書が多いらしいケーラは少し気まずそうに視線を逸らす。
『一先ず不要な騒動を招いているエーシには後で始末書を書かせる事は確定なのだけれど、陽動行為としては多少評価出来るわ。地下街の人々の視線をエーシが引き受けているこの機を逃す手はないわ。有効に活用しましょう』
そう言ったパトロがエーシがいる方向とは逆方向へと進もうとした直後の事だった。
「――――おおおおおおぉぉぉぉい!!どこだぁぁぁぁぁ!!無事なら返事をしてくれええええええええええ!!!!」
エーシとやらのもはや騒音に等しいレベルの呼び声が木霊する。歩き出そうとしていたパトロはピタリと脚を止めるとこちらに振り返る。おかしいな、パトロの表情は装備に隠れて見えないのに全身から怒りの波動が流れていて背後に般若が見えるぞ。
『…………ごめんなさい、前言撤回するわ。あの単細胞を黙らせないと今後の組織運営に支障を来す恐れがあるので二手に分かれます。私は単独でミシィの捜索に取り掛かるので、あなた達は可及的速やかにあの単細胞を黙らせて。いいわね?』
「りょ、了解」




