猛る雄叫び、大地を震わす
あれだけ騒々しかった大通りは小人族の男によるひと暴れにより、あっという間に火の消えたように静まり返ってしまった。けれど耳をすませば遠方から怒号が聞こえてくるので、おそらく訪れた静寂はこの僅かな間だけなのだろう。
しかし静まり返ってしまうのはよくないのではないだろうか。先程までの喧騒が消え去るということはすなわち、雑踏の音に紛れる事が出来なくなるということで。
外套による認識阻害効果があっても、人っ子一人いない場所から足音がすれば不自然に思われるだろう。先程の警戒心が薄いどころか存在していなそうな下っ端ならともかく、この怪力の小人族に対してあのNPC達の狼狽っぷりからかなりの強NPCだと推測される。下手に動くのは悪手な気がする。
どうやらパトロも同じ判断を下したようで、先程と同じく右手で沈黙のジェスチャー、左手は動かないように停止のハンドサインを出した。その指示に従い口を閉じ、足を止めて小人族の男の行動を注視する。
「ったく、最近はオレの事を知らねェモグリも随分と増えやがった。見ねぇ顔だから『ティタンズ』でも新参なんだろうが、よほど教育が行き届いてねェみてーだな。抗争相手の幹部の面くらい覚えさせとけってんだ」
小人族はスーツの内側に手を伸ばすと白い筒状の紙を取り出して口に咥え、続けて白と黒の小さな金属製の球体を取り出した。それを両手に持ち、咥えている紙筒の端に近づけて擦り合わせるように打ち鳴らすと、カッと火花が散った。起きた火花は紙に引火し、男が軽く息を吸い込むと先端が赤く焼け焦げ、灰が地面に落ちていく。
……え、絵面的に大丈夫かこれ?小人族、幼児くらいの身長しかないから子供が煙草吸ってるようにしか見えないんだけど、規制表現が入ってないならセーフなんだろうか。
「……、なんだ?なんか妙な視線を感じるな……?」
野生の獣の如き鋭い視線がこちらへと向けられる。認識阻害が働いているので姿は見えていないようだが、違和感を抱かれているようだ。
「…………気の所為か?」
男が警戒を緩めたのか、両手に握っている金属球をスーツの内側に片付けようとした、その直後の事だった。
「――――どっせえええええええええええええええいいいい!!!!!」
「ッ!?」
「なんだァ!?」
遠方から凄まじい爆発音と共に、昂った男の雄叫びが反響して空間が震えた。音の発信源と思しき場所からはモクモクと土煙が昇り、怒号や悲鳴が混じった阿鼻叫喚が生み出された気配を感じる。
「どこぞの馬鹿が暴れてやがんのかァ!?ウチのシマで暴れるたぁいい度胸してンじゃねェか!!」
爆発音を聞き届けたことで目の色を変えた男は目にも止まらぬ早さで駆け出し、あっという間に姿を消した。強化スキル不使用であの敏捷性と怪力か、相手取るとなるとかなり厄介そうだな。
小人族の男が立ち去った事で、大通りに静寂が訪れた。通行人は人っ子一人おらず、気絶した巨人族の男がノビているだけとなった。捜索は捗りそうだが、それはそれとしてあの雄叫びが気になりすぎる。煙が昇る位置からそこそこ距離はありそうなのにも関わらずに届く声量、ヤバ過ぎるだろ。




