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紳士と騎士と貴婦人と

『周囲完全に囲まれてたのに被ダメなしとかどんな反応速度してんだよ……！』

『投擲スキルで放たれた斧を掴んで投げ返した時は、もう凄いというより笑っちゃったよね。そんな防ぎ方ありなんだ』

『あくまでスキルの効果が乗るのは斧の刃の部分だから持ち手の部分を掴めばダメージないのはそうなんだけど、なんで高速接近する武器を片手でキャッチできちゃうんですかね……』

『先々月のアリエス杯を制覇したのってまぐれじゃなかったんだなぁ』

興奮冷めやらぬといった観客席にいるユーザーの会話に耳を傾けると、どうやらドーム中央に立っている女性プレイヤーは闘技場において並々ならぬ実力者らしい。

赤いラインの入ったバトルスーツのような装備で全身を包み込み、右腕に装着された黄金に輝くバンクルがやたらと目を引くプレイヤーの頭上には『ミサ』と表示されていた。

先ほど実況でバーサークレディ、なんて物騒な異名で呼ばれていたがアリエス杯とやらで一体どんな激戦を繰り広げたんだろうか。

彼女はそれから踵を返してフィールドから離れていくと、入れ替わるように救護隊の様な格好をした従機士の集団が現れ、倒れ伏したプレイヤー達をタンカに載せて迅速な撤収作業に取り掛かるのだった。

『さぁて正午台の部の予選もこれで終わりかぁ』

『結局【拳鬼婦人（バーサークレディ）】の圧勝だったな。オッズ1.1倍だから当然といえば当然なんだが』

『現状判明してる最強NPC集団の【十二至星（じゅうにしせい）】相手に有効打がないから防戦一方だったとはいえ制限時間まで立ってたんだからそりゃね』

『先月のタウルス杯で【鉄仮面（フェイスレス）】が瞬殺されたの見て勘違いしたんだけど、【十二至星（じゅうにしせい）】が強いんじゃなくて【拳鬼婦人（バーサークレディ）】が強すぎるだけかこれ？』

『【鉄仮面（フェイスレス）】は相性もあったと思うけどなぁ。アリエスと【拳鬼婦人（バーサークレディ）】はどっちも徒手格闘だけど、タウルスは斧で【鉄仮面（フェイスレス）】は刺剣。体格差の関係で分が悪いのもあった上に、まともに鍔迫り合い出来ない刺剣で斧振り回してくる相手はキツイでしょ』

周囲の喧騒から気になる会話を拾っているが専門的な会話が多くてあまり理解が追いつかないなぁと思いつつも情報収集をしていると、突如ドームを煌々と照らしていた証明が全て落ち、暗闇が視界を覆い尽くした。

『――――お集まりの皆様方、大っ変長らくお待たせ致しました！これにて正午台の予選は終了です！！それでは早速決勝に進出された3名の英傑達を、実況解説を務めますワタクシ、キャメラが改めてご紹介致します！！』

暗闇から一転、眩い閃光がドームの中央から炸裂した。

拡散した光の中心部には巨大なホログラムがいつの間にか投影されており、そこには先程まで戦っていたであろうプレイヤー達の戦闘映像が映し出されていた。

『まずは1人目！変幻自在な機械仕掛けの槍から繰り出すは千変万化の波状攻撃！変形槍『アン・ブレラ』の所有者【紳士槍兵（ジェントルランサー）】ジレン選手！！！』

『続いて2人目！鎧の隙間から覗く鋭き眼光は、閃撃の雨と共に相手を刺し穿つ！タウルス杯覇者【鉄仮面（フェイスレス）】ウルス選手！！！』

『そしてトリを飾るはアリエス杯覇者！剛拳砕くは数多の鎧！華麗な舞闘を最後まで踊り切るのはやはり彼女か！？【拳鬼婦人（バーサークレディ）】ミサ選手！！！――――以上！3名による決勝戦をこれより15分のインターバルの後に執り行いたいと思います！！！！』

『『『『『『うおおおおおおおおおおおおおおおおおお！！！！』』』』』

割れんばかりの歓声と嵐のような喝采が大気を震わせドーム全体を揺れ動かす。激戦を勝ち抜いたであろう三人の英傑達へ惜しみなく送られ続ける称賛の暴風雨に、俺達はただただ圧倒されるのだった。