刺し穿つは雷槍
「――ッ、来た」
ケーラの行動に一瞬気を取られた直後の事だった。レオレクスが反応してから氷壁が1枚、2枚と割れ、既に亀裂の入っていた3枚目の氷壁が粉々に砕け散った。
『――――突入!』
地面に氷片が散乱するのを確認したパトロが、号令と共に隠し通路へと飛び込んだ。俺もその後ろ姿を追ってランスロッドを握り締めて突入する。足を踏み入れた隠し通路は鉱山を掘り進めて出来た坑道のように、岩壁が剥き出しになっていた。天井には、等間隔にぼんやりと発光する石がどういう風にやったのか、無理矢理ねじ込まれており、頼りない光量で地面を照らし出していた。
『目標捕捉!通路天井にてテトロドバッド、及びクイーンの集団を確認!』
パトロが電光剣で天井付近を指し示すと、そこには甲高い声で鳴きながら大量に蠢く赤い瞳をこちらに向けて威嚇する大量のテトロドバッドと、まるでスイカの様に丸々とした巨大な蝙蝠が2体、翼を大きく広げて天井から逆さ吊りの状態で立ち塞がっていた。クイーンは通常個体のテトロドバッドの10倍はあろうかというサイズである。突然変異種とかなんだろうか?
『攻撃、いけるかしら!?』
――っと、いけない、考察してる場合じゃないぞ。早く仕留めないとこちらに被害が出てしまう。再び『ウルトラソニック』を撃って来る前に攻撃を当てて倒さなければ。俺は固く握り締めたランスロッドをテトロドバッドの群れへと目掛けて差し向け、高らかに叫んだ。
「ハイ!――――『ライトニング』!」
叫びに呼応して穂先から紫電が一直線に伸びていき、天井付近で激しく雷光が爆ぜた。テトロドバッドの短い断末魔と共に、バタバタと力尽きた個体が地面へと墜落していく。――が、ここで問題が発生。
「ッ!届いてない!?」
テトロドバッドの群れがクイーンを守るように文字通りの肉壁となったことで、ライトニングが直撃するには至らず2体のクイーンは健在であった。ならばもう一発を喰らわせるまでだ。あと2回は撃てる!
「――『ライトニング』ッ!」
雷撃が空を駆けて天で炸裂する。落ちていく無数の残骸。しかし女王に雷光は届かない。テトロドバッドの数、本当に減ってるか?実はしれっとサイレントでリポップしてないか?
地面にはライトニングが直撃した事でやられた大量のテトロドバッドの亡骸が転がるが、クイーンの周囲には未だに大量の赤い瞳が蠢いている。こうなったらもっと距離を詰めて放つしかないか?
――いや、違うな。ランスロッドは魔法が使える槍だ。槍として使えるのであれば、何も握り締めて振り翳すだけじゃない。投擲しながら魔法を放てばいいんだ。手本ならレオレクスが散々見せてくれた。それを真似すればいい。
スキルの『投擲』と組み合わせることで攻撃の威力が上がるかは不明だが、様々な物理演算が現実と同じ様に働いているこのゲームなら相乗効果くらいあるだろう。貫通力アップとかしてなんとかなれ!ならなきゃ毒の体液被弾覚悟で『瑞氷』でぶった斬る!――――ええい南無三!!
なかばやけくそ気味になった俺は勢いそのままに槍投げのような構えを取り、軽く助走をつけて天井に貼り付いているクイーン目掛け、ランスロッドを『投擲』スキルを発動して渾身の力を以て放り投げた。
「――――『ライトニング』ッッ!!」
穂先から放たれた紫電が、まるで彗星のように尾を引いて空を駆ける。力の限り投げ放たれたランスロッドはテトロドバッドの群れに直撃すると、目が眩む閃光が通路内に迸った。




