拳鬼婦人
それからギルドにとんぼ返りしてモリーの冒険者登録を済ませた俺達は、シャトルランを行ったことでもう見るからに不機嫌さMAXのアセリアさんの恨み言を耳にしながら、9番街を経由して闘技場のある4番街へと向かっていた。
ギルドから闘技場に向かう場合、2番街から時計回りに進むよりも中央の9番街から抜けた方が若干距離は短くなるようで、ギルドを出て15分ほどで闘技場らしき建築物が目に飛び込んでくる。
ムルフィームの全体的な街並みはレンガ作りや木造建築の建物が並ぶ中世風ファンタジーという様相なのだが、眼前に飛び込んできた巨大な建物はRPGでよくあるようなコロッセオ型ではなく、現実世界で見かけるドームのような形状をしていた。
ギルドカードではなくスマートウォッチ風のステートウォッチだったり、やたら近未来的アイテムがあるので近代的建築物もあるのではないかと予想はしていたが、やはりあったようだ。
そんな闘技場ではすでに試合が行われているのか、時折場外に非常に大きな歓声や指笛のような音が聞こえてくる。
「アレが闘技場!?ドームじゃん!!」
「MAPではそう示されているな」
「どうでもいいんだけど早く休ませて……!」
「入口ってどこだろうな、現実にあるドームと似た感じなら複数箇所ありそうだけど」
「このまま直進すれば正面に出入口がある、そこから入ろう」
走りながらMAPを確認するソーマの指示に従い闘技場の出入口へと向かうと、そこには入場を制限する複数のレーンが等間隔で佇んでいた。
『ようこそ闘技場へ。本日の正午台の試合は既に参加募集を締め切っており、現在観戦のみが可能となっております。観戦をご希望される方はこちらのレーンをまっすぐお進み下さい』
入口付近に建つ電灯に備え付けられたスピーカーから機械音声でのアナウンスが流れる。どうやらすでに闘技場で試合が始まっているようだ。
正午台、ということは一日に何回か時間を分けて試合を開催しているのだろうか?
「なぁこれってそのまま素通りして大丈夫なヤツ?」
「問題ないはずだ」
「何かあれば警告なりNPCが出てくるんじゃね?」
「じゃあオレ一番ッ!!」
モリーが我先にと解放されているゲートを駆け抜ける。特に警報が鳴ることもないので、素通りで問題なさそうだ。
モリーに続いて俺、ソーマ、かなり疲労困憊な様子のアセリアさんもゲートを通り闘技場内へと足を踏み入れる。
そのまま眼前の薄暗い階段を駆け上がると広々とした視界が広がると同時に、耳を劈くような割れんばかりの大歓声が襲い掛かってきた。
『――……勝ッ!! 圧勝です!! 徒党を組もうが関係ない!! 取り囲もうが倒れない!! 迫る攻撃を華麗に躱し!繰り出す拳は急所を穿つ!!隙なし敵なし並ぶ者なし!!刮目せよ!!これが【拳鬼婦人】の実力だァッ!!!!』
四方から反響する実況者と思われる熱の入った女性の声を受けて、ドーム内からはもはや爆発音の如き音の奔流が空間を支配していた。
周囲をぐるりと取り囲む観客席は満員御礼の狂喜乱舞。
戦闘フィールドと思しき中央には無造作に転がる武器。
倒れて微動だにしない複数のプレイヤー。
そして毅然と、凛然と、ただ静かに右拳を天高く突き上げる女性のプレイヤーが独り。
「――――さぁ、次は何方が私と踊ってくださるのかしら?」




