止まぬ波濤を生み出すのは
それからパトロの忠告通り、すぐに氷壁の開いた空洞からテトロドバッドの大群が押し寄せてきた。俺はランスロッドの穂先を襲い来る先頭のテトロドバッドへ狙いを定めてライトニングを放ち、二度三度と断末魔の大合唱を聞き届ける。そして地面には大量のテトロドバッドの亡骸が積み重なった。
しかし想定より地味にしんどいな。ライトニングを当てたらテトロドバッドの性質上一撃で倒せるとはいえ残り、撃ち洩らしは叩き落さないといけないし、何より魔力も少なくなってきた。マナポーションの手持ちもないし、このままだと魔力が枯渇するのも時間の問題だ。
「……これが普通なのかどうなのかはオレ知らないんだけれどさ、流石に数が多くないかい?」
『恢白』によるブーストが切れてライトニングの射程範囲が狭まり、撃ち洩らしたテトロドバッドを槍の柄の部分で叩き落しながらレオレクスがボヤいた。
『……そうね、通常なら三波あたりでテトロドバッドの数が大幅に減少してくるのだけれど、今回はその傾向が見られないわ』
「……もしかしたらこの群れ、クイーンの群れなんじゃないか?」
「クイーン?」
「テトロドバッドの個体の中にはテトロドバッド・クイーンと呼ばれる通常個体より巨大な雌の個体が存在している。クイーンは群れの統率をしており、出産時期の雌を外的から守る為に雄のテトロドバッドへ攻撃指示を出したりするのだが、この異様な個体の多さはその一団と対峙している可能性が高い」
テトロドバッド・クイーン……女王蜂みたいなものか?ならこの襲いかかってきたテトロドバッドの一団は、我が子を守る為に命懸けで突撃してきたのだろうか。もしそうなのだとしたらゲームとはいえ、だいぶ惨い事をやってしまったな。
いやまあ所詮ゲームだから気に病む必要なんてないのはわかってはいるけれど、それでもこういった裏事情的なのを知ってしまうと少し気後れしてしまうな。
「ふぅん?ならそのクイーンとやらが指示を出してるなら、それを叩いてしまえば手っ取り早く片付くって事かい?」
尻込みした俺とは対照的に「そんなことは知ったこっちゃない、早く終わらせたいんだけど?」という雰囲気が滲み出ているレオレクス。地面に転がったテトロドバッドが完全に消沈しているのを確認する為に槍で突付きながら、テトロドバッドの生態に詳しいケーラ達へと問いかける。
『いいえ、もしクイーンがいる場合それは悪手になるわ。クイーンが支配する大群が統率を喪った場合、配下のテトロドバッドの凶暴性が増したという報告が過去に挙げられているの』
「クイーンは我々には知覚出来ない特殊な波長でテトロドバッドへ指示を出しているらしい。死の間際、最期の力を振り絞って掛けられたクイーンの号令は、冒険者で例えるなら強化スキルのようなモノなのだろう」
「ああ、倒すとバフ撒き散らすタイプのモンスターなんだ」
「じゃあ、やることは変わらないって事ですか?」
『ええ、なのでひとまずテトロドバッドの波が収まるまではこのまま迎撃ね。魔力残量は平気かしら?必要ならマナポーションを渡すわよ?』
「あ、お願いします」
『はい、どうぞ』
「ありがとうございます」
魔力枯渇の懸念の所に渡りに舟。パトロから受け取ったマナポーションをぐいっと飲み込み魔力を回復させる。これで襲撃が収まるまで魔力が保てばいいが……。




