蠢く赤眼
『――さて、まずは私が氷壁に穴を開けてテトロドバッドを通過させるから、あなたはそこから出てきた群れに目掛けて『ライトニング』を放ってもらえるかしら?』
「わかりました」
『それじゃあ、いくわよ――――ハァッ!!』
裂帛の呼吸と共にパトロが電光剣で氷壁の一部をバターのように刳り貫いててみせると、その隙間からテトロドバッドの群れが一斉に襲い掛かってきた。
「TiTiTiTiTiTiTiTi!!」
甲高い耳障りな鳴き声と共にテトロドバッドが迫りくる。数は10や20じゃきかないな。迫る群れの奥まで赤い無数の瞳が蠢いている。集合体恐怖症の人が見たら強い嫌悪感や恐怖感が湧き上がるヤツ。正直ゾワゾワする。
「――『ライトニング』!!」
僅かな不快感を感じながら俺はランスロッドをテトロドバッドの集団に向け、高らかに魔法名を唱えた。ランスロッドの穂先から電光が迸ると、バチバチと音を鳴らしながら薄暗い空間を照らす紫電が駆け抜けていき、先頭のテトロドバッドに直撃する。初速がそこそこあるなこの魔法、牽制にも使えそうだ。
「Ji――!?」
魔法が直撃したテトロドバッドが短い断末魔を零す。ぶつかった紫電は留まらずに貫き進み、後続のテトロドバッドも短い断末魔を残してバタバタと地面へと落下していく。断末魔の輪唱と地面へ一定のリズムで墜落していく地獄のようなアンサンブル。
しばらくして落下の音が鳴り止み、地面へと激突したテトロドバッドはピクリとも動かない。先程ケーラが言っていたけど、本当に雷属性の魔法なら一撃なんだな。テトロドバッドの経験値がおいしいなら簡単にレベリングとか出来そうだ。リポップするのに時間かかったりするなら再現性は難しそうだが。
「あれま、随分と弱いね。もう終わりかい?」
『いいえ、まだよ。次が来るわ』
あまりにもあっけないのでレオレクスと同じくこんなものかと拍子抜けをくらったが、どうもそうではないらしい。パトロは警戒を緩めることなく、刳り貫いた穴の先を見つめている。すると、再び闇の中で蠢く大量の赤い眼光と視線が交錯する。
『テトロドバッドは大群で行動するの。目算で50匹超は倒したけれど、おそらくまだ第二波、第三波と控えているわ。油断しないで』




