飛んで火に入るのは虫だけでなく
「……想定より長く話し込んでしまったわね。そろそろ御暇しますわ。それでは、ごきげんよう」
それからミサさんは、俺達が降りてきた螺旋階段へと向かって立ち去って行った。明かりとか特に持ってなさそうだけど大丈夫なのだろうかという疑問はあるが、まあミサさんなら多少の暗闇でも問題ないのだろう。
「うん、初めて会話したけど理性的な人だったね。てっきりオレは異名に違わぬ戦闘狂いで対人戦にしか興味がない危ない人だと勘違いしてたよ」
「ははは」
自己紹介ですか?というツッコミはグッと飲み込み、適当に乾いた笑いで返事をする。レオレクスに自覚がないのはまあどうしようもないし、個人のプレイスタイルにとやかく言うのも野暮だしここは沈黙が金。
『世間話は終わったみたいね?それでは引き続き、捜索任務にあたるわ。ここから先はいつ襲撃されてもおかしくない危険地帯だから、警戒を怠らないようにお願いするわね』
パトロに促された俺は気をしっかりと引き締める。これから向かうのは地下街という名称だが、実質人型モンスターの徘徊するダンジョンだと捉えた方がよさそうだな。
仮に地下街で戦闘不能になった場合、ちゃんと回収部隊が来てくれるのか不安要素はあるが、NPCやプレイヤーが自由に行き来出来るエリアなら問題はないと思いたい。けど運営のなんかわからんこだわりが発動したら放置される可能性もありそうな……まあなるようになるか、なるかなぁ……?
一抹の不安を抱えながら、先頭を進むパトロの後ろ姿を追従する。サウスはここで負傷した2人を救護部隊が来るまで待機するので、徐々に光源から離れていくことで周囲が暗くなっていく。ゲームなので完全な真っ暗闇にならず、注視すれば見えない事はないがやはり暗いと見えにくいな。『恢白』を明かり代わりに使うか。
外套の袖を捲り、両手を露出させると『恢白』の極彩色の輝きが周囲をうっすらと照らし出す。ないよりはマシといった具合の明るさだが、これ暗がりだと「どうぞ狙って下さい」って言ってるようなものだなこれ。
『――あら?』
『恢白』から溢れた輝きに反応したパトロが立ち止まり、くるりと此方に振り返る。おっと、あまりよくない判断だったか?と少し身構える。
『急に明るくなったと思ったら、あなたの装備から溢れる光だったのね。仕組みは……一目見ただけではわからないけれど、とりあえず今は仕舞ってもらえるかしら』
「す、すみません」
パトロにやんわりと窘められる。軽率な行動だったようだ、反省。
『暗がりならもう少しの間辛抱して頂戴。それと隠し通路を通り過ぎる間は、決してその光を外套から零さないように。隠し通路内には光に反応して襲撃してくる猛毒を持つ蝙蝠が棲息しているから、最悪命を落としてしまうわよ。隊員達の装備があれば防げるレベルだけれど、あなたの装備ではおそらく防げないだろうから』




