アンテナは届く範囲の情報しか拾わない
「…………えーっと、不勉強で申し訳ないんだけど、オレその人知らないんだよね。有名な人なのかい?」
どこか申し訳なさそうに頬を指先で掻きながらレオレクスが尋ねる。ヴィクトリア・ペレス……どこかで名前を聞いたような気もするが、ミサさんの目標としている人物の名前を挙げられても中々ピンと来ない。類い稀なるセンスを持つミサさんが目標とするくらいなんだから、恐らく凄い実績を持つ人なんだろうけど。
「……、現代の女子格闘界で世界最強の座に君臨する【絶対女王】の異名を取るプロの総合格闘家よ。昨年、近代スポーツ史に残る偉業を達成して世間でも名を馳せていると思っていたのだけれど、…………そう、界隈外ではあまり認知度は高くないのね」
総合格闘家、というとミサさんのリアルで関わりのある人物のようだ。話を聞く限りだと、現代の女子格闘技界のトップに立つ人らしいが、如何せん格闘技界には情報のアンテナを張り巡らせてはいないので初耳の情報だらけである。SNSとかでネットサーフィンしていても、エコーチェンバーで興味のある情報しか基本的に流れてこないからなぁ。
「……んー?アダマンタイト……総合格闘家……?」
しかしレオレクスにはどこか心当たりがあるらしい。顎に手を当ててウンウンと唸る事数秒、思い当たる記憶を掘り当てたのか、レオレクスは自身の右手で左の掌をポンと叩いた。
「――ああ、それなら知ってる。動画サイトで一時世界トレンドに入ってたヤツだったかな。コロファイでプロゲーマーチームの『GenesiS』相手に5人抜きしたって動画、それに出てた人と同一人物かい?」
「あ、それなら俺も見た覚えがあります。確かペンテシレイアを使ってたような」
数ヶ月くらい前だっただろうか。動画サイトで『コロッセオ・ファイターズ』に関する動画を漁っていたら、関連動画のオススメで表示されたので視聴した記憶がある。そうか、そこで名前を耳にしていたから聞き覚えがあったのか。
「そうそう、少し癖があって扱い難い低Tierのペンテシレイアで、アーサーが放った超必殺技の『アサルト・ラウンズ』を完全回避。アマチュア相手ならともかく、プロゲーマー相手にそんなの決めたらそりゃバズるよね」
コロッセオ・ファイターズには古今東西あらゆる英雄達がプレイアブルとして登場するのだが、アーサーはそのプレイアブルの中でも最上位Tierのキャラである。初心者が雑に使っても強いけど、プロが使うと理不尽なまでに強い性能を誇るいわゆる厨キャラ。
逆にペンテシレイアは非常に重く、取り回しの難しい短剣と小盾を武器に戦うプレイアブルで、その癖の強さから上級者ですらあまり使い手のいないプレイアブルだ。
そんな実質ハンデを背負ってプロゲーマー相手に大立ち回りをして、非公式の対戦だったがアーサー含めて環境キャラ相手に5人抜きで勝ってしまったというとんでも内容の動画であった。『GenesiS』の面々もメインの持ちキャラじゃなかったとはいえ、その反響は凄まじく、確か数億回は再生されてたかな?
「本業以外で認知されているのは些か腑に落ちない所ではあるけれど……、ええ、同一人物よ。彼女、格闘ゲームの腕前も一流なの。興味が湧いたら、是非私達の本業にも目を向けてくれると有り難いわ」
『アサルト・ラウンズ』
聖剣エクスカリバーを地面に突き立てる事で、大地の龍脈を吸い上げてエクスカリバーの刀身に刻まれた刻印から魔法陣を展開し、円卓の騎士を集結させるアーサーの超必殺技。総勢12名の円卓の騎士が総攻撃を仕掛ける。相手は回避しないと死ぬ。
……おや?このエクスカリバーのデザイン、どこかで見覚えがあるような……?




