無法の世紀末、ジオフロンティア
『ご歓談中失礼。改めて、我が隊員の救助に尽力して頂き、感謝申し上げます』
俺がジェミニ杯について思い返していると、レオレクスとミサさんの間にスッとパトロが現れて、ミサさんへ向けて深々と頭を下げた。それから身体を起こしたパトロは両手で己の頭部を掴むと、ぐいっと上に持ち上げる。すると外れた頭装備の中から左頬に一文字の傷のついた黒髪パッツンの女性の顔が現れた。
「私、治安維持部隊『ピースキーパー』にて総隊長を務めるパトロと申します。差し支えなければ、このあと本部にて心ばかりの御礼の品を差し上げさせていただきたく存じます」
「まあ。御心遣い、感謝申し上げます。ですが、そのお気持ちだけ有り難く頂戴させていただきます。見返りを求めての行動ではないので、ご理解頂けると幸いですわ」
「左様でございますか、御配慮頂き恐縮です」
パトロの謝礼の申し出に対してミサさんは丁重にお断りを入れると、パトロは右手を胸の前に当てて傅いた。それからパトロは外した装備を改めて頭部に装着し、サウスらの元まで移動する。
『サウス、あなたはここで捜索任務から外れてカトーとキネカを介抱しつつ、救護部隊が到着するまで待機してもらえるかしら』
「ハッ!了解であります!!」
「……捜索任務?どなたか行方不明なのかしら?」
パトロとサウスの会話を耳にしたミサさんが疑問符を頭上に浮かべる。そうか、ミサさんは偶然通りすがっただけだから事情を知らないのか。
「えっと、地下街に潜入捜査をしていた治安維持部隊の隊員が消息を絶ったみたいで、俺達はその捜索の為にここまでやってきたんです」
「あら、私が見かけた方達以外にも攫われた方がいるのね」
「ミサさん、ここに来るまでに何か不審な人物とか見かけたりしてませんか?」
「御生憎様、地下街では不審な人物だらけなの。右を向けば乱闘騒ぎ、左を見れば盗難騒ぎ。振り返れば乱痴気騒ぎで、地下街でまともな人間とすれ違うのは、淀んだ湖の底から透明な石を探し出すくらいに困難極まるわ」
「治安完全に終わってるじゃないか」
「ええ、まるで世界の終わりを見ているようだったわ。その分、退屈はしないけれどね」
地下街の実情を聞いてドン引きしたレオレクスを見て、クスッとミサさんが小さく鼻で笑う。ミサさんの言う通り、退屈はしなさそうではあるけど、気が気じゃないな地下街?単身突撃だと身包み剥がされて終わりなのでは?




