勇猛と無謀は紙一重
「……、――あら?また貴方ね」
光量が落ちた事でこちらの顔を認識出来たのか、ミサさんと視線が交錯すると声をかけられる。俺は軽く会釈を返して口を開いた。
「えっと、こんばんは、ミサさん」
「こんばんは。こうも行く先々で邂逅するのは滅多にない事なのだけれど、不思議な縁もあったものね。それとあの晩、貴方へ渡した素材も早速役立っているようで何よりよ」
ミサさんの視線が外套の袖の隙間から顔を覗かせる『恢白』に注がれる。周囲が薄暗くなった事もあって、『恢白』から溢れる極彩色の光が間接照明のように自身の周辺を照らしていた。
……うん、暗い屋内だとやっぱ目立つなこれ。隠密行動とかとてもじゃないけど出来ないぞ。それとなんとなく魔力の充填が早くなっている気がする。大気中のマナ濃度とやらが地下空間だと濃かったりするのだろうか。
「はい、その節はありがとうございました」
「え、キミ【拳鬼婦人】と知り合いなのかい?」
ミサさんと会話をしていると、目を丸くしたレオレクスが割り込んでくる。3日連続で偶然顔を合わせただけだが、まあ知り合いと呼んでも差し支えはないだろう。けど本当にただの知り合いでしかないんだよなこれが。
「一昨日から何度か顔を合わせた程度ですけど、まあ一応そうですね」
「そういう貴女は闘技場で見かけた覚えがあるわね。たしか魔槍使いだったかしら?」
「これはこれは。かの名高い【拳鬼婦人】の気に留めて頂けるなんて恐悦至極」
「ええ、周囲が臆する中で単身勇猛果敢に攻めてきたのをよく覚えているわ」
いつ頃の話なのかは不明だが、実質ボスみたいな動きをするミサさんが相手だろうと、単身突撃するレオレクスは本当に怖い物知らずというかなんというか。今のところまともに被弾したのを見たことがないミサさん相手に、躊躇わず攻め込もうとする勇気は称賛に値すると思う。
「……まあ一撃で返り討ちにあったけどね。けれど、今のオレは以前とは違う。それを今月のジェミニ杯で証明してみせるつもりさ」
「そう、それは愉しみね」
ジェミニ杯、っていうとなんだっけか……えーっと、確か闘技場で月末に開かれる大規模な大会だっけか。ミサさんが前々回のアリエス杯の優勝者で、ヴィレジャスさんの店にやってきたウルスさんがタウルス杯の優勝者だったような。




