地下街ジオフロンティア
『さて、そうしたら流れを確認するわ。今回の潜入捜査は地下街ジオフロンティアにて消息を絶った隊員の捜索よ。地下街は地上と比較して治安が乱れているので最悪の事態も想定されるけれど、その場合は隊員を回収して即座に撤収します。発見に至らない場合であっても、最後の通信ポイント周辺の捜索が2時間を越えた場合は帰還するわ』
超速で去っていったフルフェイスの部下は暫く待っていたがなかなか戻ってこなかったので、パトロが潜入捜査の説明を開始する。治安が乱れて最悪の事態ってのは、まあ平たく言うなら命を取られるって事か。どうやら地下街はスラム街みたいな場所なのだろうか。
荒くれ者の巣窟とか言ってたけど、まあ此方側の戦力的に一方的にやられるなんて展開にはならないだろう……と思いたい。
ポンコツ要素が顔をのぞかせてしまったが、ボス並の戦闘能力を有するケーラと、恐らくそれと同等かそれ以上の戦力を有しているであろうパトロ。闘技場で対人経験豊富なレオレクス。外套を手渡しする際にガンつけてきたフルフェイスの人の能力は未知数だが、今は不在の超速で移動した部下と並んでパトロの直属の配下であるなら相応の実力者だろう、知らんけど。俺が足引っ張るような展開にならない様、頑張らないと。
それと2時間のタイムリミットもあるようで、現在時刻を考慮すると最長でも日付が変わる前には捜索の結果はどうあれ終われそうか。いくらVRゲームプレイ中は睡眠に近い状態だとしても、明日も普通に学校がある。あまり遅くならなければいいけど。
「質問いいかい?地下街とやらはあまり詳しくないんだけど、認識阻害効果のある外套を着させるって事は、もしかして歩いてるだけで因縁をつけられるって事なのかい?」
『基本的にはそう捉えてもらって構わないわ。ジオフロンティアではすれ違う通行人と少しでも接触したり、視線が合っただけで憂さ晴らしに殴り合いになったりする場合もある場所よ。だから人通りの少ない場所を歩く時は最大限、警戒するように。人通りが多ければ襲撃の危険性は少ないわ。代わりに盗難のリスクは高まるから、装備は必要最低限にしておくのを推奨するわ』
……おっと?スラム街どころの話じゃないなこれ?無法地帯レベルじゃないか。え、そんな所に今から向かうんですか俺達?
「なにそれ治安終わってるどころの話じゃなくないかい?目が合えば一触即発で、人混みあるけば身包み剥がされるとか世紀末?」
『セイキマツ、というのは存じ上げないけれど、我々がおいそれと手出しが出来ない無法地帯だと認識してもらえればとりあえずは十分よ。だから極力、荒事は回避したいの。個の力で圧倒的出来るとしても、ジオフロンティアには多くの犯罪組織や凶悪犯罪者が蔓延る場所で、最近は地下街に潜った一部の睡醒者も頭角を現していたりするわ。多勢に無勢、戦闘行為はあくまで最終手段として考えておいてもらえるかしら』
なんか一気に血生臭い展開になってきたな。犯罪組織だの凶悪犯罪者だの、この調子なら地下街を牛耳るマフィアとか暴力団とかも出てきたりしそうだ。少なくとも詐欺行為を働くNPCを見かけているから、まあ間違いなく存在しているんだろうな。
それにプレイヤーも地下街に潜れるということはその組織に加入したら実質闇バイト体験みたいなのが出来ちゃうんだろうけど、大丈夫かこれ?規制入ったりしないのか?
Q.なんかこのゲーム、現実となんら遜色ない動きが出来て闇バイトの体験出来るって聞いたんですけど?
A.LDDのゲーム開始には氏名年齢性別等の現住所を含む個人情報登録必須、プレイヤーログを一定年数保存する旨、また状況に応じて警察への情報提供を行う場合がある等の記載があった利用規約に同意の上で闇バイト体験したいならどうぞご自由に。
――というのは冗談ですが、実際はゲーム内通貨で現実で買物する際に必要な情報なので、いくらゲーム内でPKしまくろうが建物を破壊しようが、詐欺行為をしようがゲームのプレイ内容に応じて警察のお世話になることはありません。
ただし、例外は存在する。今はまだ語るべき時ではない。




