隊長の条件【一定以上の戦闘能力を保有していること】
それからレオレクスとクレイの解錠処理が完了した俺達は部屋を退室して再び一階へと向かう。階段を下って入口まで向かうと、パトロとその部下達が待っていた。
「今戻った」
『待っていたわ。早速向かいましょう――と言いたい所なのだけど、まずはこれを』
「なんだ、『黒隱糸』を使うのか」
『ええ、丁度修理が終わったみたいだから使うことにしたわ。あなた達の分も用意したから使って頂戴』
パトロがハンドサインで渡すように指示を出すと、折り畳まれた外套を持ったフルフェイスの部下が手渡してきたので受け取る。
「『黒隱糸』は我が組織において希少な装備品である。くれぐれも丁重に扱うように」
フェイスガードの向こう側、ギロリと睨めつけるような視線を向けられながら受け取った外套を広げて袖を通す。全身を覆うタイプなので少々動きが窮屈に感じるな。というか何の装備だこれ?隠密行動用?夜間用装備か?
「ねぇ、これ動き難いんだけど装備しないとダメなのかい?こんなの付けてたら戦闘で遅れを取るんだけど」
こういう時に歯に衣着せぬ物言いが出来るレオレクスに正直助かっている。ズケズケと物怖じせずに自己主張出来るのはある意味で才能。人の顔色というか機嫌を伺うフシがある俺からすればほんの少し羨ましいと思えたり。
『動き難さはごめんなさいね。要改善事項なのだけれどなかなか難しいの。『黒隱糸』は潜入任務や隠密行動用の装備よ。外套に織り込まれた特殊な繊維で、魔力を通すと一定時間周囲からの目視に対して認識阻害効果を発揮するの。超近距離だと効果は流石にないのだけれど、そうでない状況下であれば認識されにくくなるわ』
「スミマセーン!ワタシ鍛冶師なので魔力ほとんどないデース!」
と、外套に袖を通すもサイズが大きいのかブカブカで萌え袖のようになってしまっているクレイが声を上げる。
『あら、そうなの?それは困ったわわね』
「あのさ、だったら別にクレイは連れて行かなくてもよくないかい?そもそも嫌疑をかけられたのってオレと彼なんだしさ」
『……?どういう事かしらケーラ、先程述べた嫌疑は彼ら全員ではないの?』
顎に手をあててパトロはケーラへと尋ねる。さっきの踊り場での会話の流れからすれば俺達全員治安維持部隊に逆らった無法者、みたいな感じになってたけど、厳密に言えばクレイはケーラから逃げただけで公務執行妨害とかはやってないからな。
「……すまない、私の説明不足だ。レオレクスの言う通り、嫌疑をかけたのはレオレクスとシキ両名であり、そこの彼女は重要参考人であったのだが逃亡を図ろうとしたので一時的に拘束しただけで、公務執行妨害等の行為には該当していない」
『なるほど、私の早合点だったようね。事実確認は端折らずきちんとすべきだったわ、ごめんなさい。あなた達、彼女を貴賓室まで案内してあげてもらえるかしら。せめてもの御詫びとして、最大限もてなして差し上げて』
「アノー、それならワタシ、モテナシ要らないので現場まで戻してクダサイ。ワタシの従機士、置き去りで心配デス」
『……従機士の置き去り?………………ケーラ?」
パトロの声のトーンが一段階下がる。ピシャリと冷水を叩きつけるような声音が空間を支配する。
「……っ、説明、説明をさせてもらう」
頬から一筋の冷や汗を垂らしながらケーラが弱々しく声を発する。どうもこれ一度や二度じゃなさそうな雰囲気である。ケーラと初邂逅時の並々ならぬ威圧感やらは何処へやら。クールな外面を引っ剥がしたらかなりのポンコツ属性が付与されていたのが判明。
『……あなたね、戦闘能力と制圧能力は高いのに現場の対応が要所要所でおざなりなのよ。仮にも隊長を務めてるのだからもっと部下に対して示しがつく行動をしてもらわないと困るわ。始末書の数も以前よりは少なくなったとはいえ、それでも他の隊と比べても多いのは問題よ。だいたい――――』
堰を切ったようにつらつらと言葉の大洪水がケーラを襲う。感情的ではなく、淡々と事実を述べていくパトロの叱責の大波を浴びせられる度に萎縮していくケーラ。見てるこっちまでなんか胃がキリキリしてきたぞ……。




