食事はよく噛んで食べるべし
「えっと、……それじゃあいただきます」
恐る恐る『ヒョーロウ』へと手を伸ばす。触感はドーナツみたいな感じで摘むとほんのりと指先が沈み込む。表面をよく見るとナッツのようなモノが砕いてまぶされていた。しかし毒々しい見た目は見ているだけで口に入れる気力が減少していくので、俺は一思いに口の中に投げ入れる。
味は……しないな、びっくりするくらいしない。無。霞食べてるのかっていうくらい何も味がしない。香りもしないので本当に無である。まあ下手にとんでもない味や香りを電気信号で再現して身体に拒否反応が出ようもんなら、それこそ大問題につながりかねないからこれはこれで。
数回咀嚼して飲み込むと、減少していた体力が全回復した。なるほど、疲労回復ってそういう事か……ってん?なんか色々バフが付いたぞ?筋力と敏捷上昇30%が5分?体力回復だけじゃなくてステータスの一時的な上昇もあるのか。
『ヒョーロウ』はの元ネタはおそらく丸みを帶びた形状なのでそのまんまの兵糧丸だろうな。戦国時代辺りで重宝された丸薬状の携帯保存食で、蜂蜜や水飴を混ぜ合わせていたので実際は甘い味らしい。
「おかわりも自由だ、遠慮なく食べるといい」
俺が『ヒョーロウ』を食べた事で気を良くしたのか、ケーラが皿ごと勧めてくる。「いや、そんなにはいらないです」と断りたい所だが、どこか期待するような眼差しを向けられると無碍にも出来ず。とりあえず追加で1個もらう事にした。
「ならもう1個もらいますね」
『ヒョーロウ』を再び口へと放り込む。体力の回復は満タンなので発生しないが、バフが再び発動して筋力と敏捷の上昇値が60%になってい……60%?オイオイ、個別判定で効果時間が伸びるんじゃなくて30%から加算されるのか。ならもう1個食べるとどうなるんだ?普通に考えるなら90%になるのか?それとも上限ありか?
好奇心に突き動かされて更にもう1個手に取り、口の中へ。すると口の中で強烈な苦みを覚えて体力が減少し、バフが消えた。
「ゲホッ!?」
更に強制的な咳き込みが発生。一気食いは身体によくない、という事か?バフが消えただけでなく、デバフが追加されている。『麻痺』10秒と表示され、身体に痺れが走った。
よくよく考えたらステータスに一時的なバフが入るってことは、ある意味ドーピングみたいなモノかこの『ヒョーロウ』。ドーピングを一気に使うならそりゃ身体に悪いな。いや単発でも十分身体に悪いけれども。




