あくまで重要参考人なので配慮の余地あり
それからケーラの監視下の元、俺達は治安維持部隊の本部がある9番街へと向かうことになった。しかし移動中は道中ですれ違うプレイヤーに奇異な目線やヒソヒソ話を耳にする晒し者体験であった。護送車とかないからまあ仕方ないとはいえ、あんまり経験したくないなこれ……。
「わ、なにアレ?」
「たまに見かけるヤツだ。なんだっけな、たしか街中で暴れたプレイヤーやNPCを連行してるんだっけかな」
「ふーん?でも頭上にプレイヤーネームないって事はNPCなんだ?初期装備つけてるのに」
「1ヶ月ログインしなくなってNPC化した元プレイヤーとかなんじゃないかな。NPC化されたらプレイログを参照に行動パターンが決まるみたいな話らしいよ。迷惑行為を繰り返してた元プレイヤーなんじゃない?」
「へー。よくわかんないけど、なんかすごい事やってんだね」
「未判明の仕様が依然としててんこ盛りだから、かなり複雑なんだよねこのゲーム。希望的観測を含むガセ情報だったり、伝言ゲームで正しい情報がガセになったりってのが普通にあるし」
会話に聞き耳を立てると、どうも頭上のプレイヤーネームが見えなくなっているらしい。前をただひたすらに歩くレオレクスの頭上を見ると、たしかに見えていたはずのプレイヤーネームが消えていた。
もしかしてこのバングルをつけると一時的に見えなくなるのだろうか?プライバシーの保護的な?ニュースで例えるなら手錠にモザイクを掛けるようなモノだろうか。心象悪化の配慮、一応あるんだ。
そうこうしている間に9番街に入り、晒され続けて歩く事5分。治安維持部隊の本部らしき建物が見えてくる。角張ったビルのような建物で、どこか見覚えというか馴染みのあるデザインである。
まるで警察署みたいというか、その本部を彷彿とさせるデザインというか。デザインの著作権的にすこし心配になるけど、まあ3階建てくらいの高さしかないのでセーフ判定だろうか、知らんけど。
「そのまま正面入口まで進んでくれ給え」
ケーラの指示に促されるまま進むと、頑丈そうな両開きの扉が視界に飛び込んでくる。金属で出来ている扉の左右には屈強な2人の男達が番兵のように睨みを効かせていた。
「――む、ケーラ隊長!巡回お疲れ様でございます!!そちらの2名……失礼、3名は?」
入口に近づいた俺達と背後に立つケーラの存在に気づいた男が、夜間であるのを顧みることなく大声で反応する。人数を訂正したのはケーラの背中にはクレイを背負っているからだ。
そのクレイだが、先程からうんともすんとも言わずに沈黙を貫いている。体力が0になって死亡判定を受けている、というよりはスリープモードに入っているような感じだ。離席中みたいな感じか?
でもVRゲームで離席というかスリープモードって出来るのか?ヘッドセットから外されたら強制ログアウトになるはずだが……。




