世間は意外と狭い
「……昨日の今日でなにしてはるん?その首から上についてるんはお飾りなんか?転がすといい音奏でそうやねぇ?」
「うっ」
冷ややかな目で痛い所を突き刺してくるリーラライフさん。思わずうめき声が洩れる。リーラライフさんはヤレヤレと小さく溜息を零すと、どこからともなく杖を取り出した。
「まあ色々と聞きたい事はあるんやけど、事情はどうあれとりあえず騒動収めたるさかい。うちの日課の邪魔なんよ。こん先に居るのは治安維持部隊の隊長サマで間違いないやろ?」
「え?あ、ハイ。たしか……ケーラ隊長とか呼ばれてましたけど、お知り合いなんですか?」
「知り合いも何も、ケーラはうちの妹や」
「妹!?」
突如明かされる衝撃の事実。言われてみればあの冷ややかな目にリーラライフさんの面影を感じたような……。そうか妹。まさかの身内だったか。
「とりあえずこの水蒸気が邪魔やね。――――『ハイ・ウィンド』」
リーラライフさんが杖を横薙ぎに振るうと、その動きに合わせて猛烈な横薙ぎの風が吹き荒れて水蒸気を吹き散らす。周囲一体に漂っていた濃霧はあっという間に消え去ると、突如吹き荒んだ風に対して防御姿勢を取ったレオレクスとケーラが現れる。
「くっ」
「これほどの風魔法を使用す――………る……………あ、姉君?」
リーラライフさんの姿を見た途端、ケーラの動きが固まる。どうやらかなり動揺しているのか、顔から冷や汗が浮かび上がり、血の気が引いて顔面蒼白になっている。
「久しぶりやねぇ。相変わらず魔力操作が大味なんは代わり映えせんけど、地位は向上しとるようやね」
「あ、姉君!?な、なぜ此処に!?」
「何故も何も、ここはうちの日課の夜戸出の通り道さかい。兎に角、通行の邪魔なんよ。はよどいてくれへん?」
「じゃ、邪魔ッ!?そ、そう仰られても現在捕物の最中でありまして!」
「捕物……?なんや、まさか悪事働いたん?」
リーラライフさんの鋭い視線がこちらに向けられる。実質公務執行妨害みたいな事をしでかしたので、悪事と言われてしまえばそれまでだけど、全力で言葉を濁す。
「い、いやっ、その、知り合いがやられそうになっていたので思わず手が出てしまったというかなんというか」
「知り合い?……うん?そこに居るん、もしかしてレオレクス?」
「ん?…………うわっ」
警戒態勢だったレオレクスがリーラライフさんと視線がすれ違うなり苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべる。まさかここも知り合いなのか?
「なんや暫く振りに再会したってのにけったいな挨拶やねぇ。うちに命救われた恩、もう忘れたん?」
「訓練なのに殺しかけた野蛮な女の過失なのに、その言い方は恩着せがましくないかい?」
「ほぉ……?それ、レベの事言うとるん?暫く見ない内に度胸だけならもう一立派な人前やねぇ、実力は半人前もいいところやけど」
「ハハハハハ、キミらの教えがよかったのかもね」
「まぁ御上手やね」
なんかめっちゃギスギスしてるんですけど?どこかに潤滑油ない?もしくは野生のレベさんいませんか?
【裏話】
レヴェリングが訓練中にうっかり天に召しかけたのがレオレクスです。HPがなくなる寸前の所でリーラライフが回復魔法を当てて事なきを得ました(戦闘訓練-開始‐ 参照)




