夜風に導かれて
氷弾の嵐は止むことを知らず、ひたすらに猛威を振るう。距離を詰めようにも弾幕が激しく、前に進む事すらままならない。何か遮蔽物でもあれば話は変わってくるのだが、このままではジリ貧だ。ジワジワと嬲り削られていくだけだ、何か、何かないか……?
猛攻を凌ぎながら思考を張り巡らせていると再び氷槍が迫りくる。魔力の溜まった『恢白』によるブースト込みの『フレイム』を放ち、今度は簡単に溶かし尽くす事が出来たが、再び水蒸気の煙幕が視界を――
「――ッ!?フ、『フレイム』!!」
水蒸気で視界不良になった直撃、続け様に氷槍が飛来したので慌てて左手に持ち直して放った炎で追撃を融解させる。……あ、危なかった。同じ轍を踏む所だったがなんとか反応することが出来た。
だが先程の連発で『恢白』のストックを使い切ってしまった。更にもう一発の氷槍が飛んで来ようものなら、俺にはもう防ぐ術が『恢白』による素受けかお祈り回避しかない。
それに先程わかったことなのだが、『恢白』による魔法攻撃吸収も、ストックがほぼ満タンで許容限界を越えた魔法攻撃の場合、装備の耐久値が削られる事がわかったのであまりアテにしてはならない。現状はストックが空なので氷弾を数発受ける程度なら問題ないだろうが、見るからに巨大な氷槍で同じ事をやるのは危険だろう。
そもそも質量に耐えられず純粋に吹き飛ばされそうだしな。氷弾も手に当たって吸収する際にある程度弾かれるから、慣性まではなかったことには出来ないようだし。あくまで吸収であって無効ではない。気を付けなければ。
続け様に氷を蒸発させた事で辺り一面を大量の水蒸気が漂い、霧の中に迷い込んだような錯覚に陥る。一寸先は闇ならぬ一寸先は霧で、すぐ近くにいたレオレクスの姿も見失う。この濃霧の中であれば捕捉されずに逃げられるのではないだろうか?と、一瞬考えたが見通しが甘かった。
「ッ!」
濃霧であろうと関係なく迫る氷弾。辛うじて反応して『ランスロッド』で受け流すも、1発処理しきれずに脇腹部分を掠めていき体力が1割ほど削られる。射撃音から着弾するまでの時間が僅かにだが短くなっている……?接近してきているのか?
全神経を集中させて警戒態勢に移行する。これまでの攻撃はすべて直線軌道だ、前方だけに意識を集中させていれば即死は逃れられる筈。耳をすませて意識を張り巡らせる。僅かな音を聞き漏らすまいと深く没入すると、コツコツと地面を蹴る音が後方から響く。背後!?いつの間に――!?
音に釣られて慌てて振り返ると、そこに居たのは
「――なんやなんや、こんな夜分に往来でなにしてはるん?」
「リ、リーラライフさん!?」
銀髪を夜風に靡かせ、怪訝そうな表情を浮かべたリーラライフさんが立っていた。




