光芒、闇を裂いて
「さて、そろそろ大人しくしてもらおうか」
「――ッ」
徐々に距離を詰める治安維持部隊のリーダーを悔しそうに歯噛みしながら睨み返すレオレクス。流石に勝負あったかと成り行きを見届けていると、不意にレオレクスと視線が交錯する。
何かを訴えかけるような、縋るような眼差しが此方を見る。が、すぐさまレオレクスは首を左右に振り払う。……、これは助けに入るべきだろうか?
いやまあ身勝手に喧嘩をふっかけたバトルジャンキーなレオレクスが招いた結果なので、俺がわざわざ割って入ろうというのも野暮だろう。レオレクスが戦闘したい欲を抑えて大人しく従っていれば、少なくともこの展開にはならなかったのだから。
「暴れられても面倒だから一度完全に息の根を止める。なに、心配するな。睡醒者は不死へと変貌した生命体だ。死亡後数日眠り続けた後に蘇生した者の報告も受けている」
女の手に握られた蒼のナイフが地面に振り下ろされると同時に、地表へ向けて宙に浮かんでいた大質量の氷塊が墜落を開始する。大地に落ちる影が徐々に大きくなり、薄暗い視界がより闇に塗れていく。
「安心して常世を眺めてくるといい」
レオレクスは攻撃を弾かれたノックバックの際に発生した痺れが残っているのか、膝を地面に付いたまま立ち上がる事が出来ずに飛来物を睨み上げる。
「――――――『フレイム』!!」
――――そして衝突寸前の氷塊に向けて俺は、気がつけば魔法を唱えていた。
掲げた右手と握り締めた槍が闇を打ち払う眩い煌きを放つ。槍の穂先から放たれた紅焔が轟々と激しい音を纏い夜空を駆け抜ける。槍から繰り出される炎は右手に宿る極彩色を吸い上げると、炎の勢いは増大して氷塊を軽々と飲み込んだ。それから炎に包まれた氷塊は高温で解かされ、周囲に水蒸気を撒き散らす。
「なに?」
膨れ上がった水蒸気が2人を覆い尽くす寸前、予期せぬ文字通りの横槍を投げ入れた俺に向けて、女が鋭い視線を飛ばす。そして間髪入れずに銃口をこちらへと向けて連射してきた。幸い距離が開いていたので、俺は慌てずに軌道を見極めて回避する。
「公務の妨害……、その意味がわからないわけではないだろう?」
水蒸気が霧散して姿を数瞬消した女が再び姿を現し、底冷えするような凍てつく眼光を向けてきて思わず身が竦む。しかしそれだけだ。睨まれた程度で人は死なない。
勝負に水を差すのは無粋――なのだが、たとえレオレクスの気の迷いや一瞬であっても、あんな縋るような目を向けられて、無碍にすることは俺には出来なかった。
「すみません、うっかり手が滑りました」
ともすれば挑発とも受け取られかねないセリフで俺は啖呵を切る。
治安維持部隊の邪魔をしたとなるとなんか今後色々と面倒な事になりそうだが、手が滑ってしまったものは仕方がない。なんとかしてみせろ未来の俺、あとは任せた。




