わざとじゃない
「話が早くて助かる。それじゃあオレは抵抗させてもらう――よ!」
槍を構えていたレオレクスが、女の脳天目掛けて力の限り槍を叩き付けた。しかし振り下ろされた槍の穂先は簡単に回避されて虚しく空を切る。レオレクスはどうやら武力行使にでなければならない状況にすることで、強制的に戦闘をするつもりのようだ。もしかしてこれが狙いだったのか?バ、バトルジャンキー……。
叩きつけるように振り下ろされた槍を容易く回避した治安維持部隊のリーダーは、構えた銃の照準をレオレクスへと定めて引き金を引いた。カチッという軽い音が鳴った直後、銃の先端から氷の礫がまるで散弾銃のように大量に拡散しながらレオレクスへと襲い掛かる。薬莢と弾丸が飛び出るタイプじゃないのか。エネルギー弾というか光線銃みたいな感じで魔法を射出する仕組みだろうか。
「――『火焔槍・烈風』」
迫りくる氷の散弾に対してレオレクスが応える。言葉に反応して槍の穂先が激しく燃え広がると、揺らめく炎は槍の先端から勢いよく吹き荒れ、無数の礫と衝突すると瞬く間にジュウジュウと音を立てて礫の範囲攻撃を無効化してみせる。
「……ふむ」
一瞬視線が鋭くなった女は、眼前に燃え広がる炎の障壁に対して構わず引き金を連続で引き続ける。その度に氷の弾丸が瞬く間もなく蒸発し、水蒸気となって地表付近を漂い始める。
「その程度の氷魔法じゃオレの『火焔槍』は消せはしないけど、数撃てばなんとかなると思っているのかい?」
「安心したまえ。もとより消すつもりはない――が、利用はさせてもらう」
「……なんだって?」
女がタンタンっと地面をニ回踏み鳴らすと、周辺を漂っていた水蒸気が一瞬にして凍り付いた。薄い氷の膜が地面を這い、それに巻き込まれるように瞬く間に氷のコーティングが施されたレオレクスの動きが一瞬鈍る。
「ッ!」
1秒にも満たないほんの僅かな一瞬。しかし強者同士の戦いにおける数秒の緩慢な動きは明確な隙であり、容易く命に到る一撃を叩き込むには十分過ぎる時間だ。
生まれた僅かな隙間を穿たんと、拳銃から繰り出される弾丸の速度が跳ね上がる。しかも今度は拡散する散弾ではなく、直線軌道で進む弾丸であった。弾の種類だけでなく弾速すら好みに変更出来るのであれば、これを初見で回避するのはまず無理そうだが――
「――――ハッ!!」
と思いきや全くの杞憂だったらしく、レオレクスは超反応を見せて裂帛の掛け声と共に槍を即座に回転させ、自身へと襲い掛かる氷の弾丸を弾き飛ばし――ちょっ!?こっち飛んでき――
「――たっ!?」
レオレクスが弾き飛ばした氷の弾丸が軌道を変えて俺の顔面を目掛けて飛んできたので、咄嗟に両手をクロスさせてなんとか耐える。ダメージは……あれ、ないな?いや、ごく僅かに減少しているが、思っていた程ではない。
それに飛んできた氷の弾丸が跡形もなく消えてしまっている。これは……そうか、『恢白』の効果で吸収したのか。でも完全には吸収しきれなかったから被弾したらしい。
ある程度魔力が貯蔵されていたとはいえ、弾丸一発で許容限界になる一撃なのか。直撃してたらと思うとゾッとしてしまうな……。




