突然のスリップにご注意下さい
「さて、これで全員か。まずは貴君らに――っ」
治安維持部隊のリーダーが続きの言葉を紡ごうとした直後、言葉を遮るように青龍刀が飛来した。
「…………ふむ、随分と手癖の悪い者がいるようだな」
鋭い切先が危害を及ぼす寸前の所で、肉体を貫かんと迫った凶刃は瞬く間に虚空から展開された氷塊に包まれて完全に停止する。
「ああ、ごめんよ。うっかり手が滑ってしまった。雪はホラ、色々と滑りやすくなるからさ」
青龍刀を投擲したのはうっかりと言いながら、しっかりと狙いを定めて投げ放ったレオレクス。特に悪びれた様子もなく、飄々とした態度のレオレクスは踏みつけていた腕から脚をどけてそのまま歩き出し、離れた地面に転がり落ちていた自身の槍を拾い上げた。
「貴様!!勝手な動きをするんじゃない!!」
周囲のフルフェイスのヘルメットを装着したNPCから怒声にも似た警告が発せられるが、その程度で止まるレオレクスではなく、拾い上げた槍を新体操のバトンのようにクルクルと器用にハンドリングしてみせる。
「あのさ、もしかしてだけどオレ達の事を疑っていたりするのかい?暴れていたのはそこの二人組だよ、オレ達はどちらかと言えば被害者なんだけどな」
おそらくだけど疑われてるのはレオレクスだけじゃないか?という疑問を口には出さずにぐっと堪える。腕2本ふっとばしてるし、なんならさっきの投擲攻撃で完全に警戒されてると思うが……。というかなんで投擲攻撃仕掛けたんだ?わざとか?だとしても一体なんのために?
「そうか。だが被害者にしては随分と派手に暴れたようだが?遠目からだが、貴君が上空にて彼女へ過剰な暴行を加える光景を私はしかと見届けている。弁明があるなら聞こう」
「命の危険を感じたから無我夢中だったんだよね。ごめんね、よく覚えてないや」
「……成程、先程の投擲もか?」
「うん、そうだね。錯乱してたかも」
心神喪失のフリでしらを切るつもりのレオレクスに対し、治安維持部隊のリーダーは顎に手を当てて何か考え込むような仕草を取る。しばらくして、女は何かしらのハンドサインを出すと、周囲の隊員達が一斉に二人組の従機士達を取り囲んだ。俺とクレイらの所には隊員達はやってこない。どうやら問題なしとみなされたらしい。
「ちょっ!?なにすんのよ!?」
「ええい暴れるな!!」
「触んじゃねェ!!」
「うわッ!?」
二人組を捉えんと取り囲んだフルフェイス集団に対し、リーダーの女はレオレクスの元へと単身で歩き出す。
「了解した。では落ち着ける場所を此方で用意するので、詳しい話を聞かせてもらうとしよう。御同行、願えるだろうか?」
「嫌だ、と言ったら?」
「貴君は重要参考人だ、拒否するのであれば力尽くでの連行になる。これも仕事なのでな。部下が見ている手前、見逃す事は出来ない」
女は右腰のホルスターに収められていた白い銃を引き抜き、水平に構える。
それを見たレオレクスは口の端を僅かに上げて不敵に笑った。




