凍てつく視線にご用心
とはいえ、それを判断するにも情報があまりにも不足している。現状判明しているのは推測も含むが二人組が暴れていたのをレオレクスが男をこんがり焼き上げ、女は翼をぶった切り、両者揃って隻腕にしてみせたという事だ。
…………うーん、困ったな。レオレクスが4:6くらいで暴れ散らかしてる印象しかないというか、どっちが悪者かわかったもんじゃないぞこれ。
とりあえずこれ以上の戦闘はないと判断した俺は警戒を解き、一歩引いて状況を見守ろうとした直後の事だった。
ピィー!という甲高い警笛が夜の街に鳴り響き渡るやいなや、俺達の周囲を同じ濃紺色の軍服を身に纏い、フルフェイスのヘルメットを着用した集団が一斉に現われ、盾と槍を構えて取り囲んだ。
「――全員!その場を動くな!!」
凛とした鋭い声が場を制する。声の発信源に視線を向けると、そこには唯一フルフェイスのヘルメットではなく制服と同色の軍帽を深々と被り、射るような眼差しの携えた女が両腕を組み仁王立ちでこちらを睨みつけていた。
周囲を取り囲む団体とそのリーダーと思しき女の左上腕部には、エンブレム型の腕章が装着されているのだが、まるでトネルオラージュを回収していった部隊みたいに似通っている。しかし衣装のカラーリングが異なるのと、周囲を取り囲む人物の頭上にプレイヤーネームが表示されている存在が数人見受けられる。どうやらNPCだけではなく、この中にはプレイヤーもいるようだ。
「我々は『治安維持部隊』である!!住民の通報を受けて馳せ参じた!!おとなしく投降すれば手荒い対応はしないと誓おう!!」
「――チッ、面倒なのが出てきやがったなァ!?」
「うわサイアク!!よりにもよって【凍鬼】じゃない!?」
女の姿を視界に捉えた直後、二人組は露骨に表情を歪めた。どうやら両者の間には浅からぬ因縁があるらしい。トウキと呼ばれた治安維持部隊のリーダーである女の周囲には、冷気の様な白い霧状の気体が纏わりついていた。トウキのトウは凍の凍か?氷魔法でも使うのだろうか?
にしては軍帽を目深に被った女の手に杖や魔本などは見当たらず、あるのは右腰のホルスターに突き刺さった拳銃である。トネルオラージュを回収していった部隊が使用していた近未来的なデザインの拳銃ではなく、ごく一般的な形状で掌より一回り大きなサイズの白い拳銃が、静かな威圧感を放っていた。




