やられたらやり返してもよい。ただし倍返しは過剰防衛
「……――ふン!!」
抱き抱えていた女をゆっくりと手放した男は、肩に突き刺さっていた槍を引き抜いて放り捨てた。カランカランと甲高い音を立てて槍が地面を転がり跳ねていく。
「リューナ!とりあえず一度逃げるぞ!!そんなボロボロな状態じゃあ確実にやられちまう!」
「はぁ!?嫌よ!なんで逃げなきゃいけないのよ!?ここまでやられて引き下がれるワケないでしょう!?」
「ここまでやられちまったから引き下がるんだよ!!折角拾えた命を捨てるなんざバカのすることだぜ!!」
男は反論する女の手を摑んで駆け出そうと右手を伸ばすが、上空で何かが爆ぜるような音が炸裂した直後、天から稲妻の如き速度で襲来した何かによって無情にも切り落とされてしまう。
「――ッァァ!? 俺の腕がァ!?」
切断された腕を抑えながら男は酷く狼狽し、苦悶の表情を浮かべて絶叫する。
「命を拾えたと思ったかい?ただの勘違いだよそれは。キミ達の命ならほら、オレが今握ってるよ」
炸裂音の発生源である地面に降り立ったレオレクスの手には、片刃の湾曲した刀が握られていた。中華ファンタジーでよく出てくる武器の……なんだっけな。えーっと、ああ、そうだ青龍刀とか柳葉刀とか呼ばれている類の武器だ。
まるでボスキャラみたいな登場の仕方をやってみせたレオレクスは、青龍刀の刃になっていない背の部分を自身の肩に担ぐように置いて、2人の前に立つ。
「さて、これでお揃いだ、満足してくれたかい?」
地面に転がる男の腕を踏みつけながら、レオレクスは女の方へと視線を向けながら告げる。お揃いってもしかして隻腕の事を言っているのか?もう言動が完全に悪役のソレである。堂に入りすぎていて、これを素でやってるのだとしたらNPC相手といえども普通にドン引き案件だ。
「……ッ!」
翼の折れた女は悔しそうに歯噛みしながらレオレクスを睨み返す。睨み返すだけで、反撃に出たりはしない。そりゃそうだ、下手に動けば先程の目にも止まらぬ一撃で両断されてしまう恐れがあるのだから、迂闊には手を出せないはずだ。
「……ハッ!随分と悪趣味なヤローだなテメェはよ!」
「無差別に襲いかかっていたキミ達に言われる筋合いはないかな?あくまで正当防衛、ってヤツだよ」
「オイオイ冗談キツいぜ!正当防衛なら全身丸焼きにしたり腕切り落として弄ぶ真似なんざしねーンだよ!!」
まさかのド正論カウンターである。口に出してしまうと失礼になるので心の内で留めておくのだが、この男、見た目の粗暴で軽薄そうな印象とは裏腹にわりと理知的だ。
この男女二人組にも何かしらの騒動を起こさなければならない理由はあったのかもしれないが、まあレオレクスは少しやり過ぎている感はある。事情を聞けば情状酌量の余地はあるんじゃないだろうか。




