鋼鉄の獣、躍動す
「そうだと行ったら、どうしますか?」
「アー?……ソウダナ。別ニ仲間ダロウガ、ソウジャナカロウガ、俺達ノ邪魔スンナラ、――消エテクレヤ!!」
「ッ!!」
両腕をダラリと前方に下げるような仕草をした直後、目の前に立っていた機械人形が地面を蹴り上げ猛烈な速さでこちらへと迫る。速いには速いが、まだ余裕で目で追えるレベルの高速移動だ。俺は急な行動変化に備えつつ、サイドステップで直線的な奇襲を回避する。
「オオ?避ケルカヨ。チットは骨がアりソうだな。続けテ男ってノが残念だが、まあいいダろ」
機械人形から発せられる声に変化が見られる。合成音声のような低温だった声が徐々に調律されて、人間と同じような声音へと変化していく。さっき再起動とかなんとか言っていたが、その効果が徐々に現われているのだろうか。
「てか見た事ねェ装備付けテやがンなお前!……いいな!俺達のコレクションに加えてやんよ!!ただしお前はいらねェ!命が惜しけりゃ装備は置いてきな!!」
完全に人間と遜色ない声を手に入れた機械人形が吠える。内部が剥き出しになっていた全身の金属フレームもその表層に人肌のようなモノが形成されていき、日焼けしているかのような浅黒い肌が全身を覆い始める。
「お断りします」
『ランスロッド』を強く握り締めて、人の姿へと擬態していく機械人形へと向き直る。眼前の機械人形が先程発したリブートの意味は再起動である。ということなら出力が徐々に戻り始めていると見てよさそうだ。つまり先程の移動攻撃は慣らし運転のようなものだろう。となると、戦闘速度のギアが上がり始めるはずだ。警戒を一層強める。
「――ッハ!!断りてェなら俺を倒してみな!!」
浅黒い肌が完全に全身を包み込み、頭部からは夜の闇にも負けない黒黒とした髪が生え、局部となる下半身の逆三角形地帯には同じく漆黒のスパッツのようなモノが纏わりついた。まあ流石にそこは隠してくるよな。丸だしだと格好がつかないというか、気になって戦闘に集中出来なくなるところだった。まあパンイチ半裸もだいぶアレだが、そこは目を瞑ろう。
装備を全解除し、解除不能なインナーだけのような格好になった機械の男がクラウチングスタートのような姿勢を取ると、指先と足先から鋭く伸びていた爪が急激に伸びる。一気に成長した長爪はギリギリと不快な音を立てながら地面へと食い込んだ。
「――ッシャオ!!」
奇妙な掛け声と共に人の姿をした金属の獣が爆発的な推進力と共に迫る。まだかろうじて目で追える、が速度は先程の比ではない!切り払うように右手を振りかぶりながら接近する突進を、斜め前方へとローリングで回避する。
「甘ェなぁ!!」
「ッ!!?」
咆哮の直後、金属が僅かに擦れるような音と共に背中に衝撃が走る。背後からなので目視で何をされたのかが確認を出来ない。なんだ?何をされた?
慌てて後方を振り返ると、男は両手を地面につけて左脚だけが宙に蹴り上げたような姿勢になっていた。交錯際に蹴られたのか?というかまた傷出来ちまった!!さっき直してもらったばっかりなのに!!




