変質
「へいラッシャイ!おう!お前さんまた来たのかい!!今日はどんな用件だい!?」
カウンターに立っていたのは俺が初めて来店した日に立っていた茶髪でバンドを額に巻いた従機士だった。今日はあの小さい狐耳の少女ではなかったが、シフト制なのだろうか。
「えっと、昨日ブロンズメイルの修理をお願いしていたのですが」
「修理品の受取だな!!おうちっとばかし待ってな!」
そう言うと男はカウンターの奥へと引っ込んでいった。それと同時に建物の外からは爆発音が炸裂し、僅かに建物内が揺れて天井から埃がパラパラと舞い落ちる。オイオイ、なんかだいぶ物騒な事になってないか?
流石に異変を感じ取ったのか、店内にいるプレイヤー達も視線を店の外へと向けている。まあ建物が揺れるってかなりの衝撃だしな。それに爆発ってことは最悪の場合、建物に火がついて炎上する恐れもある。トネルオラージュ戦で街中の建物が崩壊していたのもあるし、戦闘の余波に巻き込まれる事も考えるとあまり楽観視は出来ない。
「へいお待ちどうさん!!頼まれてたモンだぜ!!2000Gな!!」
会計用の端末にステートウォッチをかざして支払いを済ませ、ブロンズメイルを受け取った。貫かれて出来た穴は完全に塞がれており、こころなしか全体が磨き上げられて輝いているように見える。
「ありがとうございました。それとまた修理のお願いなんですけど」
ブロンズメイルをすぐに着用した俺は、ステートウォッチからシルバーソードを引っ張り出してカウンターへと置く。
「おうおう、こりゃまた随分とこっぴどく壊したもんだ……って、んん?こりゃお前さん、変質してやがるぞ。こうなっちまうと今のウチじゃ手に負えねぇ。向かいのヴィレさんの所じゃないとこいつは修理出来ねぇぞ?」
「変質、ですか?」
向かいのヴィレさんってことはギルド裏にあるヴィレジャスさんの店の事だろうが、それより変質とは一体。
「変質ってのはだな、古代種だの竜種だの特殊なモンスターと戦った際に武器が稀に起こす現象でな。長時間武器とモンスターが接触していると、そのモンスターの体質が武器の性質を侵食して変えちまう現象なんだ」
「だから、変質ですか」
「おうよ。んで変質しちまった武器ってのは、一般の鍛冶師じゃどうにもならん代物でなぁ。ウチにも以前なら修理出来る職人はいたんだが、今は別の店を出店するってんで不在なんだ。ま、元々武器が変質する事自体が稀なもんで、俺もこうして実物を見るのは久々だ。見た所、雷のマナが定着してるな。お前さん、なんか心当たりはあるかい?」
「昨日、街中で雷を纏うモンスターとなら戦いました」
「ああ、珍しく街に出たっていうモンスターかい。向かいの大通りはそいつが暴れて大変だったらしいな。んじゃあそいつの影響を受けてるな、普通のシルバーソードにはない雷属性が付加されちまってる。修理するにしても同じ雷属性由来の素材が必要になってくるぞ」
雷属性由来の素材も必要になると、そもそも修理の仕組み自体変わってしまっているらしい。お金を払うだけではダメとなると、一筋縄ではいかないな。




