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「Umm……このままだとドードー巡りデス。どこかで妥協Point見つける必要ありマース」
「先に言っておくけど、オレが自分から採取に行くのを手伝うのは天地がひっくり返ろうとないからね。そもそも洞窟なんていう鬱屈とした場所に行く気は毛頭ないよ」
若干の歩み寄りの姿勢を見せるクレイとは対照的に、頑なに折れる気配のなさそうなレオレクス。これは話の流れを変えようとするならクレイでないとダメそうな気配だ。
「Oh、ワガママなプリンセスデス。そんなんだからフレンドいないデスヨ」
そんなレオレクスを見上げていたクレイは正座の状態から立ち上がり、右手の人差し指を左右に振りながらレオレクスへと詰め寄る。僅かに不機嫌そうな雰囲気を出しながら、レオレクスはクレイをジト目で睨みつける。
「オレは妥協を許して自分の感情を押し殺したくないだけだよ。大体、屈せず相手の心が圧し折れるのを待つのはそんなに悪い事かい?」
「BADとは言いきれないデスが、それが許されるのはティーンまでデース。似たようなコトしてたビッグシスター、Collegeでクローしたと言ってマス」
「我を通すのに苦労するってことは自分の意思が弱いだけじゃない?自分の言動に間違いはないと信じて疑わないなら、苦労を感じる事はないよ」
ここまでブレないと一周回って尊敬出来るレベルである。いやまあ自らの意志を貫くブレない姿勢を尊敬はするが、到底真似は出来そうもない。そもそもこんな相手が根負けするまで意見を押し通すチキンレーススタイル、常人ならメンタルが保たない。心臓、鉄か何かで出来てます?
「そもそも――」
と、レオレクスが言葉を紡ごうとした次の瞬間の事だった。
『――――キャーー!?』
『なんなのよコイツ!?』
『だ、誰か!!助け――』
建物の外から女の甲高い悲鳴と、戸惑う声と、助けを求めるも途切れた声が屋内に反響する。
「What's!?」
「何か外が騒がしいね。街中でPKでも出たのかな?」
クレイとレオレクスが音の聞こえた方へと意識を向ける。店内に残っている他のプレイヤーはというと、外部の音に反応する事なく装備の物色を続けていた。アレでもないコレでもないと、装備の詰まった箱を一心不乱に捜索している。ブレない人間、意外と多いな。いやこれが案外普通だったりするのか?
「少し見てくるよ」
そう言うと、レオレクスは槍を取り出して店の外へと歩き出した。その足取りはどこか軽やかさがあった。
「ならワタシも行きマース!ゴーニュ!念の為、バフクダサーイ!」
「承知しました。――『ハイ・プロテクション』」
「Foooo!!ヤジウマデース!!」
ゴーニュのバフを受けて意気軒昂なクレイもその後へと続く。オレも続こうとしたが、そもそもの目的である修理品の受取を済ませていない事に気づく。まずは先にそっち済ませるか。
「すみません、俺修理品受け取ってから行きます」
「Oh? OK!先に行ってるワ!!」
外へと赴く2人に背を向けて、俺はカウンターへと向かった。




