【王匠派】と【開祖派】
「とりあえず誤って売却したならもうどうしようもないわけだからさ、オレが見つけてクレイに買わせた『アイアンバックラー』と『ヒマンテス』は所持品にあるんだよね?ならそれすぐ修理してよ。ほら早く、あまり待たせないでくれるかい?」
それからポカミスを反省すべく床に正座で座り込む事を強要されたクレイと、それを腕を組みながら見下ろすレオレクス。レオレクスの組んだ指先がトントンと何かを急かすかのように規則的なリズムで叩かれる。
「Umm……ここまでブレイクした装備はワタシのマイコーボーじゃないとリペア出来まセーン」
どうもレオレクスが見つけた『アイアンバックラー』と『ヒマンテス』はかなり耐久値が減っている状態だったらしく、修理を行うにはちゃんとした設備がないと不可能のようだ。僅かな耐久値の減少状態であればスキルでどうにかなるとのことだが、壊れる寸前まで減ってしまっているとそもそもスキルが発動しないらしい。
「ここの武器屋の工房を借りれたりしないのかい?この店も修理依頼請け負っているなら生産職のプレイヤーが作業するスペースの1つや2つ、ありそうだけど」
「この店は【王匠派】で【開祖派】のワタシは【王匠派】のコーボーでの作業禁止されてマス。なので仮にスペースあっても使わせてもらえまセーン」
「……【王匠派】と【開祖派】?」
「この世界の鍛冶師、主に二大派閥に分かれてマス。ゴーニュ、派閥の解説してクダサイ」
鍛冶師に派閥があるのは知らなかったが、『王匠』と『開祖』という単語には聞き覚えがあるな。たしかヴィレジャスさんと並ぶ三大工匠の事だったか。
「承知しました。惑星ルーシッドにおいて、鍛冶師を目指す者は王族アルベリッヒを筆頭とした【王匠派】と、この世界で初めて刃物を鍛造したトバルカインを筆頭とした【開祖派】、このどちらかの派閥に所属しなければ金槌を振るう事は認められません。そして両派閥は大変険悪であり、互いにとって崇高な領域である工房には決して他派閥の者を招き入れる事はないのです。ただし売場にて装備品の取引には応じます。そこは鍛冶師ではなく、商売人としての矜持です」
「【開祖派】のエンブレムデザインがクールだったのでノータイムでチョイスしたらそうなってマシタ。この街、【王匠派】が主流みたいデス」
「じゃあ何?修理はすぐ出来ないって事?」
「YES、それとリペア用の素材が不足してるのでワタシがリペアするにも早くて明日になりマース」
「不足してるなら今すぐ買いに行けばよくないかい?」
「それが昨日から素材屋のアイテムSold outで明日の入荷待ちデース」
運営がお金をばら撒いた結果の買い占めや品切れ、アイテム屋や武器屋以外でも発生してしまっているのか。本当に大混乱じゃないか、わりと致命的なやらかしなんじゃないだろうか。
そもそもなんで詫び石に該当するゲーム内通貨の配布で余計なトラブル増えてんだ……。見通しが甘すぎやしないか運営?




