衝動ゲージは適度に消費すべし
「Umm……仕方ないデスネー、とりあえずバイバイしてきマース」
そう言うとクレイは気が進まない様子でゴーニュと共にカウンターへと進んでいった。
「あの、装備の代金払いますよ」
「うん?出さなくていいよ、オレに付き合わせてるんだからこれくらいはね」
「いやいや、悪いですし」
「そうかい?どうしても支払いたいっていうなら、――キミの命と装備で支払ってもらうことになるけど?」
音もなく出現した槍の矛先が心臓の前に突き立てられて静かに息を呑む。
……いや、落ち着けハッタリだ。レオレクスはこんな堂々とPKをしかけるプレイヤーではない。言動は度々アレだが、その辺りの分別を弁えてるはずだ。
「――なんてね。冗談冗談。まあその表情からハッタリって気付いたみたいだけど。貰えるなら貰っておけばいいんだよ。何も後から『利子つけて返せ』と取り立てるつもりなんてないんだからさ」
思った通りのハッタリであった。パッと手品の消失マジックのように槍を虚空に消したレオレクスは肩を竦めながら言葉を紡ぐ。
「……わかりました」
これ以上拒絶の意思表示をするとハッタリじゃなくなりそうな気配をなんとなく察知したので渋々引き下がる。無償の善意ほどあとが怖いものはないんだが……まあその時はその時か。
「ああ、それとクレイの事も気にしなくていいよ。さっき身代わりにされた時にダメージ貰ってただろう?」
「そうですけど、よくわかりましたね?」
「オレも以前クレイに掴まれた時にダメージ受けたからね、なによりこのゲームは軽いボディランゲージや接触程度でもダメージになるから。まあどうして運営がこんな仕様にしたのかは謎だけど、何かしらの意図はあるんだろうね」
そう、このゲームなぜか他のプレイヤーと接触するとダメージを受けるのである。軽い肩パンでもダメージが入るので、下手すればハイタッチでも被ダメする可能性があるのだ。
なので仮に体力ギリギリの状態でボスを倒した直後に仲間と喜びのハイタッチすると、攻撃判定で戦闘不能になる恐れがあるというトンデモ仕様。実際はやってみないことにはわからないが……、それに大型アプデとやらで仕様変更が入りそうでもあるしな。
「夏に大型のアップデートが入るみたいですし、改善されるといいですね」
「どうだろうね、それにオレとしてはどちらかといえばアリだと思っているんだよねこの仕様。何故なら接触でダメージが入るなら、否応なしに相手とぶつからないように動く事を強いられるからさ。そうなると移動時に接触が自然と減るようになる。交通機関や街中の超密集した人混みが大嫌いなオレからすれば、かなり有り難い話だよ。邪魔なら消せるに越したことはないけど、それが許されるのはあの箱庭の中だけだからさ」
「な、なるほど……?」
薄々感じてはいたが、闘技場で破壊衝動を発散してないと、もしかしなくてもだいぶヤバイ人なんじゃなかろうかレオレクス……?




