英雄の行いは全てが肯定される
急ぎ足で入口まで向かうと、何やら言い争う声が耳に届く。なんだまたレオレクスがお騒がせしてるのか?と、嫌な予感を抱きつつ喧騒の渦中へと近づくと、どうやら予感的中らしくピリピリとした空気が漂っていた。
「ギルドで遭うなんて思ってもみなかったがここで遭ったが百年目!!俺の武器返しやがれ!?」
「えーっと、……ごめん誰だい?」
「先週闘技場でテメェに青龍刀持ち逃げされたカンウーだよ!!」
「……青龍刀?ああ、言われてみればその顎の髭は見覚えあるような、ないような」
仙人のような立派な顎髭を貯え、老師みたいなアバターのプレイヤーがレオレクスに怒り心頭で猛抗議を示していた。どうやら昨日のニャスパリーグのようにレオレクスに武器を盗られてしまった人の様子。
もしかしなくても余罪たくさんあるな?でもレオレクスのプレイヤーネームは赤字になったりしていないので、あくまで闘技場内でだけのようだ。もしPKで無理矢理奪ったのであればレッドネームになっているはずなので。
「すっとぼけやがってこの野郎!!闘技場で武器のロストは自己責任とはいえ、普通は持っていかねぇのがマナーなんだよ!!そんなことも知らねぇのかよ!?」
「他人に道徳を説く前に、強者こそが正義である闘技場で自分が弱い事を棚上げしての批判は格好悪いとオレは思うな。それと青龍刀なら確かに拾った記憶はあるけど、その次の試合で使ってる途中に壊れて捨てたからオレはもう所持してないよ」
「んな!?す、捨てただぁ!?」
「闘技場でやられた後の試合見てなかったのかい?それともデスペナでログイン不可状態だったのかな?なんにせよ、ないものを返せと言われても困るな。恨むなら、弱い自分を恨みなよ」
「ッ!!こ、こいつ!!」
煽りのニュアンスを含む発言に怒りが頂点に達した男がレオレクスに拳を振り翳して迫る。一触即発の事態に一瞬騒然とするギルド内であったが、レオレクスは極めて冷静に拳をサイドステップで避けると、わざとらしく男に横からぶつかり地面へ転がしてみせる。
「おわっ!?」
「オレは闘技場以外で事を構えるつもりはないけど、先に手を出してきたのはキミだよ。うっかり過剰に自己防衛してしまうかもしれないけど、どうしようか?」
「ぐっ、…………クソったれ!!おっ、覚えてやがれ!?次は闘技場でそのニヤケ面ぶった切ってやるからな!!」
男は小物極まる感じに悪態をつくと、周囲のプレイヤーを押しのけて立ち去っていった。この微妙な空気の中でレオレクスと合流しないといけないのか?何の罰ゲームだ?もうこのままログアウトしようかな……。
「やれやれ、場所を弁えられない人間には困るね。育ちの問題なのかな?」
ボソリと呟くレオレクスだが、さっきぷち騒動を起こしていたおま言う案件である。なんというか一般的な人間と価値観がズレているというか、目線が合わないというか、見ている視点が異なるというか。フィクションに出てくるような高飛車お嬢様のような印象を受ける。
あまりリアルの人物を推察するのはよろしくないのではあるが、リアルだとそこそこ上流階級かヒエラルキー的上位層に位置してそうだな。レオレクスからどことなく感じる苦手意識、それかな。知らんけど。




