睡眠から目醒めし者
【用語解説】
睡醒者:(読み)スイセイシャ
《Lucid Day Dreaming》におけるプレイヤーの総称。
ある日突然目覚めた者が今までとは打って変わって別人のようになってしまった者達を指す。
海上都市『ゴルドノア』の首長であるゴルドノアが命名。
――――『当該情報を照合中。照合完了まで残り10秒』。
――――『……照合完了。惑星ルーシッドにおいて当該情報と同一存在は確認出来ませんでした。規定に基づき新たな睡醒者の情報収集、並びに新規登録を行います』
暗闇へと転落した意識を呼び起こすように視界が急速に光を取り戻す。
眼前にはなにもないまっさらで広大な空間がどこまでも広がっていた。
そしてVR機に搭載されているリアルタイムスキャニング機能で読み込んだリアルの姿そのままの俺がその純白の空間で直立していた。
てっきりいきなりアバターの姿になるもんだと思ったが、アプリで事前登録したアバターにはまだこの段階ではならないのか。
――――『登録名:シキ』
――――『性別:男性』
――――『種族:人族』
どうやら現在ユーザーの新規登録を行っている状態のようだ。機械的なアナウンスが直接脳内に反響する。
使用しているVR機がプロゲーマー御用達のモノだからか、音質は限りなく透き通っていた。
まだゲーム本編が始まってすらいないのに、これ経験すると家にある普通の家庭用VR機で遊んだ時の音質の落差すごいことになりそうだな…。
――――『職業:剣士』
――――『所有武器:ショートソード』
そんな一抹の不安をよそに、直立している俺の身体周囲を綺羅びやかな粒子が取り囲み、全身を包み込んでいく。
すごいな、どういう原理なのか知らんけどこの粒子から暖かさを感じる。
謎の多幸感を感じながら、きめ細やかな粒子の動きを目で追いつつ登録が完了するのを待つ。
――――『契約従機士:なし』
従機士というのは『LDD』でプレイヤーのサポートを行う特殊NPCだ。
設定としては見た目は人族だが、亜人族の身体的特徴を備えた人造の機人族。
まあざっくり言うと三種族のハイブリッドアンドロイド。
外見はサポート性能で大まかに変わる模様。
エルフ族型なら長耳、鳥人族型なら翼、巨人族型なら色々デカい……などなど。
亜人族の外見的特徴が組み込まれているらしい。
――――『情報登録が完了しました。当該情報をラボへと転送します』
どうやらユーザー登録が完了した様子。
周囲を取り囲んでいた粒子が身体から離れていき、リアルの身体がアプリで事前設定したアバターの姿に置換されていく。
黒髪から白髮へ。
なんの変哲もない無地の黒いTシャツから中世感漂う白い布の服へ。
アイボリーの白いパンツから飾り気のない茶のズボンへ。
肉体と衣装が完全に変化したことで、直立不動状態だった身体が自由を得る。
プロ仕様のVR機体性能によるものか、それともゲームの物理演算や仕様が卓越しているからか、肉体の動きに関してはリアルで身体を動かす感覚となんら遜色がない。
いや、むしろ現実よりも動きやすいと錯覚するほど動作に淀みがない不思議な感覚。
――――『惑星ルーシッドへようこそ。新たな睡醒者、シキ。まずはムルフィームの冒険者ギルドへ向かうといい。君と同じ境遇の者達が集っている』
戸惑いを感じながら身体を一通り動かしていると、先程まで脳内に直接語りかけてきた機械音声とは異なる声音が周囲の粒子から反響する。
状況から推測するに、ラボに送られた情報を管理する人物の声なのだろうか?
――――『そこでこの世界での生き方を学ぶといい。それから肉体を鍛え上げて武を極めるもよし、精神を練り上げ魔を支配するもよし、運を呼び寄せて冨を掴むのもよし。この世の遍く全ては君が望み、継続することで得られるだろう』
その言葉の直後、世界が暗転。視界は再び完全な闇に覆われる。
――――『君の歩む道に幸多からんことを願っているよ』
従機士についての小話
従機士は『LDD』は月額課金制のゲームで通常プレイのみの契約プランとは別に、追加料金を払うことでゲーム開始時からパーティーに加入することが出来る。
プラン以外だと闘技場の上位者報酬やユニーククエストの達成報酬で追加加入可。
従機士の加入上限はないが、パーティーメンバーの上限が15名の為、プレイヤー本人含めて14体が実質的な上限。
プレイヤーの中には複数体の従機士を従えている者も存在する。