その女、傍若無人につき
「なんか鳩が豆鉄砲くらったような顔してるけどそんなに驚くことかい?まあ鳩に豆鉄砲を撃ったことなんてないんだけどね」
「おい!まだ話は終わって――ッ!?」
「そんなに喚かないでよ。夜も深まってる時間帯なんだから声量は抑えないとさ。それともオレが無理矢理黙らせないといけないかい?」
レオレクスは食って掛かるプレイヤーに対して音もなく取り出した槍を喉元寸前にビタ止めする。息をつまらせたかのようにたじろいだプレイヤーは、そのまま床へ尻餅をついた。
「…………レオレクス様、それ以上の行為は処罰の対象になりますのでお控え頂けますか?」
普段より二段階くらい低く感じるクーリアさんの声が投げかけられると、レオレクスは悪びれた様子もなく槍をステートウォッチに収納する。
レオレクスが現われてから明らかにクーリアさんの機嫌が悪くなったのがわかる。あまり表情や声色に変化がないクールな雰囲気が崩れたのが明確に分かるレベルの変化だ。たぶん好感度がめちゃくちゃ低いのだと思われる。
「あれ、キミの担当官もクーリアなんだ、奇遇だね、オレもそうなんだ」
それから地面に倒れたプレイヤーには一瞥もくれずにこちらへと歩み寄ってくるレオレクス。やりたい放題の傍若無人っぷりは昨日と変わらずのようで。車のハンドルを握ると性格が変化する人がいたりするが、戦闘、非戦闘時問わずにどうやらレオレクスはこれがデフォルトらしい。
「あの、どうして俺のいる場所が?」
「うん?ああ、だからそんな不思議そうな顔をしてたんだ。もしかしてフレンド登録したプレイヤーの現在地はリストから確認出来るのを知らないのかい?」
「知らないですね」
「フレンドリストに登録されているプレイヤーがログインしている状態で名前を長押ししたら、その現在地が表示される仕組みになってるんだよ。まああまり知られていない機能みたいだけどね。それより立ち話もなんだし、どこか店に行かないかい?積もる話もあるしさ」
別に俺にはないのだが、まあ昨日何が理由かは依然として不明だがやたら執着されてしまったからな……。とりあえずレオレクスのせいで悪目立ちしてしまっているので、ここはギルドから離れた方がいいのは確かではある。ホント厄介なのに目をつけられてしまったな……。
「わかりました。けどその前に用事があるので『フォルジュロン』に立ち寄っていいですか?」
「全然構わないよ。ならオレ、ギルドの入口で待ってるから」
レオレクスはそういうと踵を返して歩き始める。
「驚かせて悪かったね。怪我はしてないと思うけど、お詫びにポーション渡しておくよ」
「え?あっ、お、おう?」
その途中で尻餅をついたプレイヤーにポーションを放り投げ、レオレクスは立ち止まることなく入口へと向かっていった。
「えっと、すみませんクーリアさん。お騒がせしてしまって。とりあえず特別なクエストに関してはまたの機会でお願いします」
「シキ様に落ち度はございませんので謝罪は不要です。承知しました。では、挑まれる際はまたお声掛け下さいませ」
「はい」
レオレクスがいなくなった事で声色の戻ったクーリアさんに断りとお辞儀をして、俺は逃げるようにペコペコと周囲に頭を下げながら早足でカウンターから立ち去るのだった。
 




