自覚はあるが、それはそれとして
アラーム音で仮眠から覚醒。ベッドから身を起こして着替えを手に取り風呂場へと向かう。しかし何故か脱衣所の扉が閉められていて、扉の奥からはシャワーの流れる音。……まさか未來のヤツ、もう帰ってきてるのか?玄関まで靴を確認しに向かうと俺の靴とは別に未來の履いているローファーが並んでいた。
「マジかー」
思わずボヤく。未來のヤツ基本長風呂で入ったら30分はでてこないんだよな……。仕方ない、先にメシにするか。目的地を風呂場から変更してリビングへと向かう。作り置きされていた夕飯は唐揚げとトマトサラダとけんちん汁だった。揚げ立てなら衣パリパリなんだけど、冷めるとあんまり美味しくないんだよな唐揚げ……まあレンチンすればいけるか。
それからサクッと夕飯を食べ終えて食器を洗い終えると、リビングの扉が開いてタオルで濡れた髪を乾かしながら未來が現れる。
「ああ、いたんですか兄さん。部屋をノックしても反応がなかったので、寝ていると判断して先にお風呂頂きました」
「別にそりゃ構わないけど、今日早くね?部活あるならいつももう少し遅いだろ」
「学校付近で不審者が出たという通報があり短縮になったので。幸い不審者はすぐ捕まったみたいですけど」
「ふーん?物騒だな」
「まったくです。最後の大会まで残り僅かで練習時間も限られてるというのに、なんともはた迷惑な……」
最後の大会、か。土曜日に叶純とばったり会った時にそんな感じの会話をしたのをふと思い出す。そういやメールの着信のせいで大会の日程聞きそびれてたな。聞いてみるか。
「そういや未來、大会っていつなんだ?この前偶然叶純と会ったんだけど、その時に観に来てくれって言われたんだが」
「…………え?兄さんまさか観に来るつもりなんですか?来なくていいですよ。家で大人しくゲームでもしていてください。気が気じゃなくなるので絶対に来ないでください。絶対ですよ?」
「なんでそんな刺々しいんだよ……」
「とにかく来ないで下さい。スミちゃんが空回りする可能性は少しでも下げたいので。気負い過ぎるんですよ、あの子。兄さんに対して絶対とかなんとか言ってませんでしたか?」
神妙な面持ちの未來に言われてふと先日の会話を脳内に呼び起こす。確かに「絶対来て下さい!」とかなんか並々ならぬ熱意を発していたが、気負い過ぎるとはそういう事だろうか。
「その顔は思い当たる節があるみたいですね。スミちゃんはウチのエースです、エースの不調の原因になりかねない要素は徹底的に排除するのが主将かつ司令塔である私の役目なので、ここは譲るつもりはないです。応援なら試合当日の朝にSNSのメッセージで十分です。前日だと寝不足になる恐れがあるので」
「なんか保護者みたいだなお前」
「誰が保護者ですか!」
「まあいいや、そういう理由があるならメッセージだけにしとく。日程だけ教えてくれ」
「……再来週の土曜日です。場所は教えません」
「んな顔しなくても土曜日なら部活だからそもそも行けないっつーの」
「ああ、兄さんeスポーツ部に入部したんでしたっけ」
「おー、それに来月早速大会に出る事になったぜ。まあ控えだけどな」
「……入部して間もない兄さんがメンバーに選ばれるなんて、星煌台高校はそんな層が薄いんですか?確か去年全国大会に出場してましたよね?」
「俺が実力者という発想にはならないのかよ」
「申し訳ないですけど兄さんに強者のイメージはないので」
「……身内贔屓にならない正確な酷評どうも」
まあ実際部内で無双出来る実力があるわけじゃないしな、将来性を見込まれて選ばれたってだけだし。
…………うん、事実ではあるんだがなんかムカつくので絶対将来見返してやると密かに心の中で誓うのだった。




