行き当たりばったり
到着した仮眠施設の簡易式ベッドで横になり、ステートウォッチを操作してLDDからログアウトした俺は、横たわっていた身体を起こし、凝り固まった筋肉を解す為に大きく伸びをした。
パキパキと背骨辺りから鳴り響く音を聞きながら、続けて両肩をグルグルと回してストレッチを行う。
プロ仕様のVR機器に使われているクッションが医学的アプローチに基づいてデザインされている恩恵か、普段遊んでいる時より凝りは凄く軽く感動を覚える。
フルダイブ型のVRゲームは操作を手ではなく脳波で行う関係上、睡眠時と同じでほぼ固定された体勢になる影響で連続しての長時間プレイはあまり推奨されておらず、こまめな休憩を取り身体を定期的に動かす必要がある。
昔遊んだゲームでは長時間連続プレイをしていると警告を出してくるゲームもあり、それを無視したままプレイし続けていたら強制的にログアウトさせられた事もあったっけ。親に。
外部からの強制切断って視界が突然闇に覆われるから本当に怖いんだよな……。
まあその恐怖体験を今から彷徨う友人に仕掛けるワケだが。
専用台座にセットしていたスマホをポケットに仕舞い、個室から出て龍斗の入った個室へ向か………………個室……?しまったアイツの入った個室知らねぇ!?
行き当たりばったりなので往々にしてこういうガバが炸裂する。それぞれ分かれる際に龍斗がどの個室に入ったかなんて覚えてないぞ……。
とりあえずポケットに突っ込んだスマホを慌てて取り出すと、ポケットから小包みが転々と床に転がり落ちる。そういえば貰った飴玉ポケットに突っ込んでいたのすっかり忘れていた。
少し離れた位置まで転がってしまった飴の包みを拾おうと、しゃがんで手を伸ばそうとした時だった。
「――キョウ先輩?」
「ん?」
背後から声を掛けられて振り向くと、そこには背の高い見慣れた顔付きの少女が立っていた。
手に何冊か本を抱えた少女はこちらに駆け足で近づいてくる。
「キョウ先輩っ!!」
「おー、叶純か」
「はいっ!おはようございますキョウ先輩っ!!」
元気な返事をしたのは妹の友達である八神叶純だった。
「おはようさん。あと声はもう少し控えめにした方がいいな、他にお客さんいるから」
「あっ!?ご、ごめんなさい……!」
叶純とは妹の未來と共に小さい頃から家族ぐるみの付き合いがあり、感覚的にはもう1人の妹のような存在なのだが……、なんか見ない間に身長がすごく伸びていた。
俺が中学を卒業する時点で叶純とはそんなに大差ない身長差だったのだが、今は完全に見上げる位置に顔がある。未來と共にバスケ部に所属している事や成長期なのも加味すれば急に伸びるのは十分に考えられることだが、正直ものすごく羨ましい。
俺もまだ成長期だからこれから伸びる可能性は十分あるが、両親の身長がそこまで大きくないからどうだろうな……、身長って遺伝によるものが大きいだろうし。




