運は全てを凌駕する。
それから1限目の始業のチャイムが鳴るも紅井先生がなかなか起きず、学級委員長の久奈原が起こしてテストの返却が始まった。終始眠そうな目で答案を返却する紅井先生。俺の結果はというと、学年平均の62点よりは上の81点。まあ8割取れているなら十分だろう。
我が校の定期テストはマークシート形式の為、答えがわからなくても最悪ヤマカン頼みで当たる。ラストの問題が全然わからなくて最終的には適当に塗りつぶしていたのだが、勘が冴えていたようで見事に正解していた。二択までは絞れていたから実質正解みたいなもんだろ、うん。
「森河ー」
「ハーイ」
「惜しかったなー。だからオマケしておいたぞー」
「オマケ?……って補習プリントじゃん!?」
「あと1問当たってたらって意味の惜しいだ。まあ赤点は赤点、ちゃんと今週中に出すように」
「うへぇ……」
「森河お前赤点かよー、現国けっこう簡単だったろー?」
「いや難しかったって!」
「まあお前の頭脳レベルじゃ難しいに分類されるか」
「んだよー!そんなに言うならお前は自信あんだろうな!?」
「次ー、守野ー」
「ったりめーよ!まあ俺が頭の出来の違いってやつを見せてやるよ!」
「守野お前なー、解答欄全部ズレてたぞー?定期テストだからよかったが、これ大学入試でやらかしてみろ?1年棒に振るんだから気をつけるんだぞー?ハイ補習」
「え゛」
「だっっっっっさ!!」
「頭の出来が違う男はやることがちげぇなぁオイ!?」
「大見得切って赤点かよ!?」
「あああああああああ!!うるせぇうるせぇ!!」
「男子うっさい!!」
「おーい静かにしろー。あんまり騒ぐと主任の黄島に私が怒られるんだー、勘弁してくれー」
「一緒に補習がんばろーぜ!」
「ええいその無駄にいい笑顔やめろ森河!!」
騒々しい一喜一憂がありながらテストの返却が終わり、間違いの多かった問題の解説も終わって1限目の残り時間も僅かになった辺りで、紅井先生は黒板の解説を消して大きく『自習』という文字をチョークで書き記す。
「じゃあ私は授業終わりまで寝るので各自静かに自習するように。先生と同じように睡眠学習しても構わないし、トイレに行きたきゃ勝手に行けー」
「アカちゃんせんせーさー、なんでそんなに眠いの?なんかの病気ー?」
「違う、単に眠いだけだ。教師という職業の睡眠時間のなさを舐めるなよー?だから私は寝れる時間があるなら、たとえ5分10分だろうと寝るって決めてるんだ」
「わー、ヤバー」
そんなクラスの女子と紅井先生の会話を耳にしながら、しばらくして1限目が終わる。それから2限、3限、4限とこなして昼休み。メシの時間である。ウチの学校は学食と購買があるのだが、我が家は母が毎朝弁当を作って持たせてくれるので基本は教室で弁当を食べる。
「蒼馬、メシにしようぜ」
「ああ」
「メシだメシだー!」
「お、出たな赤点マン」
蒼馬とやってきた龍斗も同様に親が弁当を持たせているので、昼はこうして三人揃ってメシを食うのが学校での日課の一部となっている。
「う、うるせー!そういう鏡はどうだったんだよ!?」
「俺?81点」
「オレの倍以上かよ!?え、ちょっ、蒼馬は!?」
「97点」
「3倍!?」
「おお、流石」
「ケアレスミスがあった、次は満点を取る」
「ちくしょー!全然わかんなくて全部適当に塗りつぶしたのがダメだったかー。次は高校入試の時に使ったコロコロ鉛筆使うかー!」
「適当に塗りつぶしてギリギリ赤点だったの逆にすごいな?」
「お前がこの高校に入学出来た謎が解けた」
「いやー、それほどでも?」
「褒めてねぇ」
「褒めてない」
「ええい!終わった話はいいんだ!オレは振り返らない男!それよか昨日はゴメンな急に抜けちまって!!」
龍斗が空いている机を動かし、持参した弁当を広げながら謝ってくる。見事に揚げ物しか入ってねぇ弁当、見ていて逆に清々しいな……って昨日?ああ、そういや急におつかい頼まれて強制ログアウトくらったんだっけか。
「いいって別に。家庭内ヒエラルキーは抗いようがないのはどこの家でも常識だ」
「ヒエラルキー……?ってなんだ?」
「お前それでほんとよくウチの高校入れたな?」
『学歴フィルターもたまにすり抜けるから信用ならん』って酒飲みながらボヤいていたのは父だったか。まさか実例を目の当たりにするとは。




