目先の勝ちよりも価値あるものを優先
追撃を警戒しながら地面から起き上がり『瑞氷』を改めてを握り直すと、天井からぶら下がっていたスピーカーにノイズが走った。
『――予選終了まであと5分です。予選終了まであと5分です』
フィールド全体に機械的なアナウンスが繰り返された。もう予選開始から10分経過していたのか。制限時間は15分で残り5分の間にレオレクスを倒す……いやぁ無理だろうこれ。背中を見せたらまず刺されるか、気まぐれに見逃してくれる可能性もゼロではなさそうだが望み薄だ。
元々ふらっと参加した大会なので、そこまで予選突破に固執する必要はないといえばないのである。このままあっさり引き下がるのも手ではあるのだが、先程エクレトゥールさんに釘を差されている以上、醜態を晒そうものなら晒し首待ったなしなので、下手な真似は出来ない。勝てないにしても僅差で負けるか、何かしらの実績を残さねばならない。
倒すのは厳しいにしても、ニャスパリーグが取られた装備を取り返す事が出来れば面目躍如にはなるだろうか。あとは格上相手にどこまで迫れるかという、現在の実力を推し量るいい機会といえばいい機会だ。
とりあえずやれるだけやってみるか。ダメだったらその時また考えるとしよう。
「ほらほら、残り時間も少なくなってきたよ。早くオレを倒さないと取り返せなくなるよ?」
「そのニヤケ面、腹立つな!さっさと私の装備を返せ!!――『交刃連斬』!!』
二刀の短剣を握り高速の連撃を繰り出すニャスパリーグと交戦しているタイミングを狙ってレオレクスの背後へと回り込む。
「挟み打ちかな?その程度でどうにかなると思っているなら考えが甘いんじゃない?」
しかし周囲に遮蔽物など存在しないので、動きそのものはバレバレである。こちらを振り返る事はなく、眼前のニャスパリーグの連撃を捌きながらレオレクスは問い掛ける。
「やってみないことにはわからない、と思います」
万が一に備えて『瑞氷』を解除してステートウォッチに収納する。壊れるならまだしも奪われるのは何が何でも避けておきたい。『瑞氷』の代わりに取り出したブロンズソードを握り締め、背後からレオレクスとの距離を全速力で詰める。
「なりふり構わないのはいいね。でも攻撃が単調なのはダメだよ、つまらない」
レオレクスが左手だけをこちらへと向ける。狙い通りだ。
「――『カッティングムーヴ』!!」
現状出せる最高速度で移動した状態で放つスキル攻撃を使い、レオレクスの差し出した左腕を渾身の力で斬り下ろす。振り下ろされた刃がレオレクスの肘関節に沈み込むと同時に、俺の背中に衝撃が突き刺さる。構うものか!急速に目減りしていく体力ゲージを無視して、力の限り刃を押し切った。
「ああナルホド、キミはそういう人間なのか」
ポツリとつぶやくようなレオレクスの声が耳に届く。そして地面へ落下していく銀色の手甲が衝突する音を聞き届けた直後、俺の視界は暗転して闇に包まれるのだった。




