音を置き去りにする正拳
「『身体強化・捌式』」
スキルの発動宣言後、レオレクスの全身から青白いオーラが溢れ出して全身を包み込む。レオレクスは槍を地面へと突き立て、手首と足首をプラプラと動かし、身体の具合を確認しているようだ。というか待て、今ハチ言ったか?
「反応出来たら褒めてあげるよ」
レオレクスが地面へ一歩踏み込むと同時に床が爆ぜ、亀裂が走るのとほぼ同時に察知する嫌な気配。これはヤバ――――
「――ッ!?」
音を置き去りした超速の正拳突きが胴のド真ん中を貫かんと急接近したのを、かろうじて身を捩り回避する。
「わお、反応出来るんだ!やるね!目がいいのかな?それとも似たような攻撃をどこかで見たことがあったかい?」
「ま、まあ、そんな所ですかね」
現実であったなら冷や汗が滝のように出て早鐘の心音で騒がしくなっていたであろうが、生憎ここは仮想空間。崩れた体勢を整えながらレオレクスの動きを注視する。
ミサさんの動きを昨日間近で見ていなければ、まず間違いなく今の一撃で俺はやられていただろうな。ただミサさんと同等の速度ではあったが、若干だがレオレクスの方が遅く感じた。
昨日と比べて俺自身のステータスが上昇した事も多少は影響しているとは思うが、それでも回避出来たのは運がよかっただけだろう。咄嗟に足が動いてくれたからよかったものの、動かせなければ今頃地面に仰向けか壁まで叩きつけられていたに違いない。
「――ええい隙あり!!」
「ないよ」
「クッ!?」
短刀を拾い直していたニャスパリーグがレオレクスへ攻撃を仕掛けるも、レオレクスはあっさりと攻撃を完璧に受け流してみせる。青白い全身のオーラに混じり黄金のエフェクトが舞った。当然のようにパーフェクトパリィである。
俺も『瑞氷』を強く握り締めてレオレクスへと斬り掛かるが、俊敏かつ独特なリズムのステップワークを捉える事が出来ず、振るった刃は虚しく空を斬り裂いた。
「反応はいいけど攻撃がまだまだだね。直線的過ぎるし、読みやすい。フェイント入れないと――こんな風にね」
まるでダンスを踊っているかのような独特のステップから瞬く間に距離を詰めたレオレクスが俺の顔面へと右拳を振り抜――かない!?ひだ――
「――おわッ!?」
「ざーんねん、右でも左でもない――下だよ」
右拳はフェイクで左フックも寸止めのフェイク、本命は右足での足払い。あっけなく倒され天井を見上げる形で地面に倒れ込む。
「ほらほら、そんな所で寝転がってると踏み潰しちゃうよ?」
「くっ!?」
振り下ろされるレオレクスの右脚を、高速で寝返りを打つように転がりながら緊急回避。追撃は――来ない。完全に踊らされてしまっているし、戦いのペースはレオレクスが掌握している。実力は遥かに上で攻撃は当たらず、ギリギリ回避が精一杯。本当にどうしたものか。




