手の内を明かす義理はない
レオレクスが左手を前に翳すと、背後から勢いよく飛び出した槍が手元に収まる。投擲しても勝手に戻ってくるのは便利だな。ただスキル名を告げていないのでスキルではなさそうだから、おそらく武器か装備固有の特性か。
「さてと、じゃあ続きをやろうか」
レオレクスが構える。今度は地面へ這うような低姿勢を取った次の瞬間、槍が滑空するようにこちらの足元へと投げ込まれる。かなりの速度で迫る槍を、俺は跳んで空中へ回避する。
「――ああ、それは悪手だ」
「うわッ!?」
いつの間にか眼前にはレオレクス。槍の軌道に意識を割かれて眼を離した隙に距離を詰められたか。レオレクスが空中で器用に上半身を捻りながら繰り出す拳を、かろうじて瑞氷で弾き返す。
「っと。驚いた、これに反応出来るのか。いいね、やるねキミ」
空中でぶつかった衝撃で互いに後方へと下がる。レオレクスに何らかのスキルが発動しているエフェクトが見られないので、おそらく素の敏捷ステータスがかなり高いようだ。
高機動力の相手との戦闘になるなら眼を離さないようにするのが基本になるが、そうなると周囲の警戒が疎かになるんだよな。どうしたものか。
回復アイテムを使っちゃいけない縛りがあるから被弾は極力回避しないといけないしこれは困った。こんな事ならフィーさんのオススメ装備の『治癒の首飾り』を選んでおいた方がよかっただろうか。
とはいえ今更嘆いた所で回復効果の備えた装備が降って湧いてくるわけでもなく。持っているカードでどうにか対応するしかないのが現実。
「でもオレばかり攻めるのもそれはそれでつまんないんだよね。だからさ、もっとオレを楽しませてよ」
レオレクスが再び左手を翳した。つまり先程投げた槍が回収される――なら!
「ッ!」
奇襲が来ない事を祈りながら背後を向いた俺は、レオレクスの手元に戻ろうとする槍を瑞氷で叩き落とそうと試みる。厄介そうな武器ならどこかに弾き飛ばして使わせなくする作戦。しかし確かに当てたはずの攻撃で槍は減速する事も止まる事すらなく、レオレクスの手元にすっぽりと収まる。
「オレの武器を弾き飛ばそうとしたのかな?残念、いかなる場合であってもこの槍は必ずオレの手元に戻ってくるんだよね。あ、武器の説明はしないよ?わざわざ自分の手の内を明かす礼儀なんてないしね」
ペン回しをするかのようにクルクルと左手で槍を遊ばせるレオレクス。そりゃまあフィクションじゃないから自分から手の内晒すような真似はしないよな。作戦失敗か。




