勝者だけが正義
少し薄暗い通路をしばらく進むと開けた空間に出る。ギルドの訓練場と似たような場所だが、広さが段違いだ。数百人は余裕で入りそうなくらい広々としている。
この空間内にいるプレイヤーの数はおおよそ100人前後といったところか。それぞれが適度に距離を取りながら、互いに警戒するように他のプレイヤーを観察しあっていた。
『――あー、テステス、マイクチェック、ワンツー』
突然、部屋の中央から女の声が反響する。音のする方へと視線を向けると、天井からぶら下がったスピーカーが4台、東西南北四方に向けて設置されていた。そこから響くお淑やかそうな声に周囲のプレイヤーの視線も自然と引き寄せられていく。
『えー、本日は闘技場をご利用頂きまして、誠にありがとうございます――……なーんていう形式ばったオカタイ挨拶とかいらなぇよなァ!?性懲りもなくまた来やがったなバトルジャンキー共!!今日の夕刻の部、司会進行と実況を務めるグザルタシオン様だ!!準備は出来てんだろうなァテメーらァ!?』
「YEAAAAAAAAA!!」
「グザルタシオン様だ!!」
「うおおおおおお!!テンションぶち上がってキタァァ!!」
淑女のような鈴の音を転がす声音から一変、デスボすら余裕で叫べそうなドスの効いた声がハウリングを発生させながらスピーカーから拡散する。まーたクセのあるキャラが出てきたぞ。
ノリに着いていけずに若干引いてる俺とは対称的にボルテージが爆発的に上昇し、拳や武器を天に掲げて盛り上がっていく周囲のプレイヤー達。あれこれ俺の反応がおかしいのか?
『んじゃまあさっさと予選やってくぞ!!今日の予選は【バトルロイヤル】!!制限時間までに生き残った戦士が予選突破だ!!正面からぶった斬るもヨシ!背後から思いっきりぶん殴るもヨシ!手段は問わねぇ!制限時間の15分までの間に生き残った戦士が次の決勝に進めるぜ!!』
「うっしゃぁ全員ぶっ潰す!!」
「返り討ちにしてやんよ!!」
『ただし!1人も倒せねぇ腰抜けには用はねぇぞ!誰も倒せずに生き残っても失格だからそこんところ注意しやがれってんだ!!あと今日は予選、決勝共に【アイテム使用禁止】のスペシャル仕様だ!!使った時点で即失格だからせいぜい気をつけやがれ!!』
「アイテム使用禁止!?」
「うげぇ、縛りアリの日かよ今日」
「『ハイ・キュア』の魔導書買って修得しといてよかったラッキー」
「縛りアリなら上位報酬の従機士が配られる順位が拡大するからワンチャン狙えるか……?」
どうやら闘技場では縛りルールが課せられることもあるようだ。それに【アイテム禁止】のような縛りがあると報酬も豪華になるらしい。上位報酬で従機士が手に入るんだっけか。まあ気まぐれでやってきた記念参加みたいなもんだから、いきなり上位入賞とか考えてないから特に気にしなくていいだろう。
『説明は以上だ!とにかく敵ぶっ倒して15分生き残ったヤツが正義だ!!怖気づいて尻尾巻いて逃げるつもりならカウントダウンの30秒以内にここから離脱しな!!そんじゃあカウントダウンいくぜ!!30!29!28!――、』
そう言われて逃げ出すプレイヤーは1人もおらず、それぞれが武器を手に取り臨戦態勢に入る。熱狂の坩堝から一転、虎視眈々と獲物を見定める静かな視線が入り乱れる戦場へと一瞬で様変わりする。俺も腰を僅かに落とし、『瑞氷』を鞘から抜き取り構える。
『――15!14!13!』
全身を睨めつけるような視線があちこちから刺さる。まあアバターの白い髪と白い剣で若干悪目立ちはするか。『恢白』は現在魔力がほぼすっからかんなのでこちらも真っ白なのも相まってだいぶ注目を集めている気がする。いや自意識過剰だったらだいぶハズいけど。
『――4!3!2!1!――――予選開始だオラァ!!』
威勢の良い開始の掛け声と共にスピーカー周辺から空砲らしき音が炸裂し、決戦の火蓋が切って落とされた。




