行動はすべて把握されている
「よし、そんじゃ向かうか」
「おー!」
俺とモリーはギルドから出て2番街にあるという『グランドマザー』へと歩き始めた。グランドマザー、直訳するなら祖母とかおばあさんって意味だけど店主がおばあさんだからなのだろうか。
「オレ、ゲーム内でまだ料理食ったことないからどんな味するのかめちゃくちゃ気になってんだよなー」
「ギルドに来る前、カスタードパイ食ったけどすっごい薄味だったぞ」
「うおーい!ネタバレれれれれれれれ――――」
「どうしたッ!?」
隣を歩いていたモリーの挙動が突然おかしくなった。なんだバグか?それとも通信不良か?
壊れたスピーカーのように同じ単語を発し続けてやがて沈黙し、再生されている動画の一時停止ボタンを押したかの如く動きが完全に停止したモリー。身体に触れてみるが、まるで彫像に触れているかのように硬くなってしまっている。リアルの方でなんかトラブルでもあったか?
「――失礼」
「うおっ!?」
いつの間に現れたのか、全身を黒い軍服に身を包んだエルフ耳のNPCが1人、2人、3人4人とどこからともなく集団で現れて動かなくなったモリーを取り囲む。
「こちらの睡醒者の生体反応に異常を検知したゆえ、然るべき対応を取らせて頂く」
凛とした女の声でエルフ耳のNPCがそう告げた直後、モリーを取り囲んでいた3人のNPCが慣れた手つきで硬直したモリーをなんらかの文字が刻まれた巨大な黒い布で覆い隠す。
「『回収転送』」
周囲に立っていた男のエルフが呪文を告げた直後、巨大な布が発光してモリーを包んだまま丸ごと消失した。さっきギルドで見た黒いモノリスと同じような挙動だ。転移系の魔法か。
「生体反応異常の睡醒者、回収完了。次の現場へ移動する」
集団のリーダーらしき女はそう言い残し、一瞬で音もなく消え去った。モリーを取り囲んでいた集団もいつの間にか姿を消していた。な、なんだったんだ……?
あっという間の出来事に困惑していると、ステートウォッチがメッセージを受信する。差出人はモリーだった。
『スマン!いきなり親からVR機の電源引っこ抜かれてお使い頼まれちまったから今日もう遊べねぇ!!』
強制ログアウト(物理的)くらったのか。だから急に挙動がおかしくなったんだな。ならあのエルフ集団はなんらかの理由でゲームのプレイが出来なくなったプレイヤーを回収する存在、ということか?
モリーに『了解』と簡単な返事を送信し、メッセージ画面を閉じる。
そういえばトネルオラージュを回収していった集団も軍服衣装だったんだよな、あっちは白色だったけど。どことなく衣装のデザインが似てたような気もするが、同じ組織なんだろうか。




