酒を飲み込む時、酒もまたお前を飲み込むのだ。
「じゃあその店舗で構わないので教えてもらっていいですか?」
「ハ、ハイ!えっと、二番街に入ってすぐの大通りから一本脇道を入った所にある『グランドマザー』ってお店なんですけど、そこは持ち込みの素材で料理を作ってもらえます。持ち込みする素材がなくても料理の種類が豊富で色々楽しめて、お酒のしゅ――…………ナ、ナンデモナイデス。…………え、えっと!その、わ、私がよく利用しているお店です……!!」
「いまお酒って言わなかった?」
「おいやめろ、掘り返してやるなモリー」
酒の話を出そうとした瞬間、目がキラキラし始めたけど我に返ってから秒で消えたな。すごい仕事人根性だ。あまり取り繕えてないけど。
「……ぁぅ……っ!ち、違うんです……!?あっ、いや、本当にお酒の種類自体は豊富なんですけ――あっ!?……~~~~っ!!」
穴だらけのお口チャックからボロボロと本音がこぼれ落ちていく。嘘がつけない性格として設定されてるんだろうけど、ここまでくると実はプレイヤーなんじゃないか疑惑が出てくるが、頭上にプレイヤーネームの表示はないのでNPCなんだよな。
無数に存在しているであろうNPCにも関わらず、性格や挙動とか細かい部分まで行き届いてはいるんだが、無駄に広すぎるマップとかファストトラベルがなかったり『そこ大事だろ!』っていうのがまま抜けてるのだけなんとかしてくれたら、もう文句なしの神作品と太鼓判を押せそうなんだが……まあアプデ次第か。
穴があったら入りたいと言わんばかりに身を縮こませ、両手で顔を隠しているランナさん。職務放棄に対して沈黙で待っていたとしてもおそらくこのままだろう、というわけで無理やり話を畳みにかかる。
「ぐ、『グランドマザー』ですね。ありがとうございます。そうしたら素材は『生肉』と『蹄』だけ残してもらって、あとは買取でお願いします」
「…………うぅ、な、慣れないことはするものじゃないですね……っ。しょ、承知しました……っ!」
真面目に仕事に取り組むという役割を与えられたらそのとおりに動くのであれば、仕事を与えて再起動させてあげればいい。頭を振り、冷静さを必死に取り戻したランナさんは両頬を軽く叩いて気合いを入れ直してみせる。
「……えーっと、えーっと、では『毛皮』と『剛角』は買い取らせて頂きまして、受領されるブルーボアの『生肉』と『蹄』を御用意しますので、しばらくお待ち下さい……!」
深々と頭を下げたランナさんは討伐証を掴み、離席中と書かれたスタンドをテーブルに置いてカウンターの奥へと小走りで去っていった。
「ランナちゃんの教えてくれた店、酒あるみたいじゃん?ゲーム内なら未成年でも飲酒OKだし試しにこのあと行ってみね?ちょっと気になる!あれならランナちゃんも誘ってさ!」
「行くのは別に構わないけどゲーム内で飲酒したら画面酔い状態とかになりそうなだけどな。他のVRゲームで遊んでる時に似たような事あったぞ、ワイン飲んだら画面ブレブレになってまともに遊べなくなった」
「うげっ、それは嫌だな。オレ酔いやすいから酒はやめとくかー」
ゲーム内で酒を飲んだ場合にもグルメビルドアップとやらが発動するなら考えなくもないが、今日の分は使い切っているし、それに酒を飲んで強くなる肉体部位や臓器はないだろう。むしろデバフにしかならないんじゃないだろうか。
そもそも酒は飲んだ事はないが、酒を飲んで得られるモノより失うモノの方が多そうだ。前後の記憶とか健康とか財布の中身とか。休みの日の朝、駅近くで身ぐるみ剥がされたような格好で所持品ぶちまけて地面で寝てるオッサン見た事あるぞ。
 




